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フラロビのSS置き場。
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次で最後。


このシリーズ、前回UPしたのが2016年ですか、そうですか。
桜が咲く度に続き書かなきゃなあって思うんですけど、気が付くと紫陽花が咲いてたりして…。
後もうちょっとです。


++++++++++





ずず、鼻を啜る音がやけに大きく、空っぽの部屋に響いた。
どうしてロビンが隣にいるのか。
「さようなら」を言い合ったばかりなのに。
全く事情が呑み込めなくて、フランキーは泣きっ面を取り繕うことも思いつかず、ただただ、ロビンの顔を呆然と見つめていた。


前にも似たようなシチュエーションがあったっけなァ……
なんて、真っ白な脳味噌の片隅で考える。
ああそうだ、前回のクリスマスの時だ。
こんな風に涙をダダ漏れにして、ついでに本音もダダ漏れになった。
まさか、玄関の扉の裏側にロビンがいたなんて思わなかったから。
とっくに、ゾロのところに向かったと信じて疑わなかったから。


今と全く同じだ。
まさか、ロビンが隣にいるなんて、考えも及ばなかったから。
だって、鍵を返したロビンが、鍵の掛かった家に入って来られるなんて、普通は思いも寄らないだろうが?
「お前、どうやって…鍵…」
「ごめんなさい」
すっと伸びた細い指が、畳の上に鍵を置いた。


「前に、スペアキーを作ったこと忘れてて。これも返さなきゃ、って…」
「引き返して来た、と…」
「そう」
「鍵のスペア…を作ってたたァ…知らんかった」
「ええ。言ってなかったもの。ごめんなさい、勝手に作ったりして」
顎に伝った涙が一滴、ぽた、畳に落ちた。
ロビンが黙ってハンカチを差し出してくれたが太い腕を持ち上げる気力もなく、フランキーはアロハの肩口で涙と洟を大雑把に拭いた。
傍らで、「ふ」と小さな溜め息が漏れ、きちんとアイロン掛けされた白いハンカチは持ち主の膝元へと戻って行った。


「私ね…どうしても確かめたかったの」
ぽそ、とロビンがこぼした声に、フランキーは洟を啜り上げながら顔を挙げ、瞳で「何を」と訊ねた。
「私を送り出した後のあなたが、どんな表情をしているのか。どうしても…知りたかった」
「おれの…表情?」
「あなたが…別れ間際にくれるだろう笑顔が、どういう意味の笑顔なのか」
白いハンカチが、細い指の間で苦しそうに身を捩った。
「私が居なくなって、あなたが……清々したとすっきりと笑って寛いでいるか」
「……」
「それとも、泣いて、くれているか」


ロビンがスペアキーを作った動機、それは今この時このため、痩せ我慢していた恩師の本音を知るためだ。
ここしばらくのロビンの態度は見事なものだった。
グズグズとしてフランキーを困らせるような未練を微塵も見せず、新しい生活に向かおうとする覚悟を決めたそれは流石は聞き分けのいい優等生のものだと、残される元教師にそこはかとない薄ら寂しさを感じさせてくれた程だった。
それが渾身の演技だったとは。
お互いに、懸命に演じ合っていたとは。


「あーあ…」
これで、別離が訪れるまでの自分の痩せ我慢も、ずっと気張っていた一世一代の演技も(相手の方が役者だった)、ロビンの計画的犯行の前におじゃんだ。
フランキーは苦笑う。
こんな醜態を晒したくもなかったが、鍵の回る音にも、抜き足差し足、ロビンが近づいて来る気配にも、まるで気付かずに泣き濡れていた自分が女々しくて迂闊だったのだ。
フランキーは、大きな手の平で濡れた顔を乱暴に擦ると、罰が悪そうに下を向いた。


「…で?…泣いてたら…何だってんだ…」
擦れた声がかっこ悪くて、言葉を溜息に紛らせて吐き出す。
俯いた視界に淡い紫色の封筒が入って来た。
見て、とのことだと察し、中を覗くと一枚の、古い写真が入っていた。
「こりゃァ…」
写っている微笑ましい光景に少し、気が晴れる。


「お正月にトムさんちに行った時、ココロさんが、昔のあなたの忘れ物だって言って見せてくれたのだけれど…何となく、渡しそびれちゃって」
「…いいよ…、お前が手放せねェのも仕方ねェ」
そこには生前のロビンの母親、オルビアが写っていた。
優しそうな、綺麗な、そしてロビンとそっくりな面差しの笑顔をこちらに向けている。
その隣には若かりし日のフランキー、フランキーはしゃがみ込み、傍らの少女と仲良さげに目線を揃えている。
フランキーの白衣をしっかと握っているのは幼きロビンで、背景の職員室が悲惨な有様なのは、当時の新米物理教師が調子に乗った結果だ。
フランキーとロビンの、初めて出逢った日。原点だ。


「へへ…懐かしいなァ…」
「これを見た時、感無量で。うちにはお母さんの昔の物……何にも遺ってなかったから」
「そうか…そうだよなァ…」
オルビアが、写真を撮るようブルックにお願いしていたような気がする。
それをわざわざ焼いてくれたのに、己のズボラで十数年も向こうに置き去りにしてしまっていた。
「それでね、私、すっかり思い出したの。『フラム先生』が遊んでくれた日のこと」
ロビンは色褪せた写真に注いでいた視線をフランキーに向ける。


「それから、別れ際に、『フラム先生』が言ってくれたことも」
「おれが言った?」
ロビンは一瞬言い惑う仕草を見せたけれど、唾を飲んで喉を潤すと意を決したように一気に言った。
「『お嫁さんになる』って言った私に、『フラム先生』はこう言ったの。『ロビンが大人になった時、今度はおれを泣かせてくれよ。別れたくない!って思わせてくれたら、そん時はおれの方からお嫁さんになってもらうから』って」
フランキーの脳内にも、泣きべそをかいたロビンにかけた自分のセリフが一言一句、その抑揚までもが色鮮やかに甦る。


「ろ…ロビン、それは」
「いいの!何も言わないで!」
ロビンは両手を広げると、フランキーの言葉を押し留めた。
「それは、我儘を言って泣く私を宥めるための言葉だったってこと、ちゃんと分かってる。いくら何でも、幼稚園児と社会人だもの」
「……」
「それに、言質を取った気でいた私も、母が死んでからは……初恋の想い出から遠くなって忘れてしまっていたし。時効になっている方便の責任を取って貰おうなんて思ってないわ」
必死に言い繕うロビンの姿に、フランキーの肩も下がる。
「でも、写真を見て、それを思い出した時。最後に賭けをしようって決めたの」
十数年を経て美しく成長した写真の少女はピンと背筋を伸ばし、潔く発語した。


「もしも、私を送り出したあなたが清々していたら、私がいなくなっても変わらぬ日常を過ごすのならば、私はこのまま引き返そう。恩師と元生徒の関係に戻ろう。ここを出て、ひとりで生きて行こうって」
「ひとり?…ゾロがいるじゃねェか」
何言ってんだと目を向ければ、ロビンは困ったように小さく笑った。



君のそばで会おう(後篇)
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しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
人型の何かです。

     
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