フラロビのSS置き場。
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「私、ゾロのアパートには住まないわ」
「は?」
フランキーが見渡した元ロビンの部屋は、荷物が運び出されてがらんとしている。
「荷物を運び出した、ってこたァ、ここを出ていくつもりではいるんだろ?じゃ、どこに住むつもりだよ」
「実はね」
白い指先が薄紅色の唇を押さえた。
「アイスバーグさんに事情を話したら、ココロさんが住むところ、紹介してくれたの」
「はあ?」
ロビンの口から思いも寄らぬ人物の名前が転げ出て、フランキーの声が裏返る。
「アイスバーグ?何でアイツが?つうかいつ連絡取ったのよ?」
自分の預かり知らぬところで、ロビンがアイスバーグと連絡を取り合っていた?いつから?、等と正直、自分勝手と分かっていても気分は物凄く悪い。
「私も…ここを出て住む場所はゾロのところしかない、って思いこんでいたから、凄く気が重たかったの。でも」
バレンタインデー直前のあの日、買い物に向かうロビンを出待ちしていたのはアイスバーグだった。
フランキーの覚悟が明後日に向かい、何を言っても聞く耳を持たなかったため、ふたりの関係を何とか取り持ちたかったアイスバーグは、ロビンと直談判しようと足を運んだのだった。
そこでロビンの本当の願いと、当座の問題が春からのロビンの住まいであることを知り、ココロに仲介したのだ。
勿論、ロビン贔屓のココロだから、家賃は苦学生のロビンにやさしい破格の超良心価格だ。
先ほど荷物の運び出しをした連中はアイスバーグの手配した造船会社の面々で、フランキーが呆けてさえいなければそれが誰かが分かっただろう。
顔見知りどもに物笑いの種にされたとフランキー自身が知り、激しい羞恥心に晒されるのはこれから数日後のことになる。
「そういうわけで、ゾロとは何にもないの」
引っ越し先を確保できたロビンは、ゾロに断りを入れた。
ゾロは、ロビンの意固地なほどの一途な恋心に白旗を上げ、潔く身を引き、最後には「頑張れよ」とエールまでくれた。
アイスバーグにしてやられた、フランキーはがっくりと項垂れた。
しかも、若き恋敵は別れ際に涙は無し、と来たもんだ。
返す返す、己の涙脆さが女々しくて不甲斐無い。
「だから……もし、あなたが私との生活の終わりを、惜しんで泣いてくれたなら」
項垂れる、フランキーの項に言葉が掛けられる。
「私はあなたが何と言おうと、あなたから離れないと決めたの」
ロビンが会話に何気なさを必死に醸そうとしているのは気づいていた。
「いや、それはダメだ。お前には、お前と年が近い…」
「私も、あなた無しの今日をどうやって生きていけばいいのか、分からない!」
でも終に、限界に来たようで、彼女の声色は悲痛なものとなった。
「あなた無しでこれからの60年を独りで生きて行くのと、あなたが死んでしまった後の30年を独りで生きて行くのと、どっちがいいのかって訊かれた私が、選ぶ答えなんて分かり切っているでしょう?」
「独り、ってこたァねェだろ?ゾロじゃなくても、お前には幾らでも…」
お前は誰よりも綺麗なんだから、賢いのだから、やさしい、女なのだから。
お前を欲しがる男なんて、それこそ、星の数ほどいるんだよ。
ロビンはフランキーの、建前はもう聞かない。
「私は、あなたの傍で生きるって決めたの」
「おい」
「私がいないと…駄目なんでしょう?」
「…それは」
「私も…駄目なの…」
「……でも…よ…」
「それでもあなたが年齢差を気にして他を探せって言うのなら、私は一生独身を貫くから」
「は?」
「もう、誰とも付き合わない、一生、あなたに操を立てるわ」
「何言ってんだ?お前はまだ18で…」
「そうよ?あなたは、私の人生を、孤独に突き落とすのよ」
春の風がふわりとカーテンを持ち上げてフランキーの視線を一瞬遮った。
ふと、ロビンがカーテンの向こうに消えてしまったような錯覚に陥ったフランキーの心の底に、小さな焦りが泡立った。
スペアキー以降のやり取りが夢だったとしたら?
ロビンの消えた世界に絶望して見た白昼夢だったら?
決別は紛れもない現実で、おかしくなった自分がロビンの居ない部屋で幻を視ているだけなのだとしたら?
重力がカーテンを引き戻す。
そこにはちゃんとロビンが居た。
そして、馬鹿みたいに真面目な瞳でフランキーを見据えていた。
ホッとした。
ロビンが傍にいることに。
ロビンが隣にいてくれたことに。
彼女が在ることで得てしまった確固たる安堵に、ようやく、フランキーは己の敗北を静かに受け入れた。
「誰と一緒になったって、あなたがいなければ私はひとりぼっちなの」
畳に力無く落ちている大きな掌の内から、ロビンは自分の宝物たちを取り上げた。
蝶の髪飾りも、シーグラスのペンダントトップも、フランキーの塩辛い想いでびしょ濡れだったけれど、ロビンは愛おしそうに両手に包み、唇を押し当てる。
「それ…、もういらねェのかと思ったぜ」
「……」
「お前にゃァもう、不必要なのか、と」
「……そんなこと、天地が引っ繰り返っても、ないわよ」
ああ、
まいった
白旗だ
フランキーの手が差し出される。
ロビンがその手に手を重ねると、瞬きの間に、その身体は力強い腕に抱き竦められていた。
懐かしい匂い、大好きな匂い、
ロビンの居場所は、ここを置いて他にない。
縋るように、フランキーの逞しい首に腕を回す。
「…この先、離れたい、っつっても聞けねェ話だからな。覚悟しとけよ」
「絶対言わない。そんなこと」
あなたのそばが私の居場所。
あなたに、逢える場所。
涙で冷えた頬に頬を押し付けて、温める。
交わしたキスは、いつかの海を彷彿とさせるしょっぱい味がした。
数年後。
海沿いに佇む日本家屋では、早朝から家人である老練の船大工が落ち着きなくそわそわしていた。
その表情は、間もなく訪れる幸福が待ちきれないといったもので、用もないのに部屋や廊下を行ったり来たりしている。
「ンマー、トムさん。じっとしてろって。躓いて怪我してもことだろう」
「たっはっは。それもそうだが…」
「もうすぐ着くよ。どんと座ってろよ」
トムをソファに押し留めて、アイスバーグは窓から外を見遣った。
今日はいい塩梅に晴れ渡っている。
晴れの日に相応しい天気だ。
この春から、フランキーが実家に戻って来ることになった。
長年勤めた教職を辞して、トムと同居し、ともに造船所で働く。
勿論、フランキーと名字をお揃いにしたロビンも一緒だ。
しかも、ロビンは臨月、トムが必要以上にそわそわしているのはこのせいだ。
念願の、亡き母と同じ職に就いたロビンだったが、1年で産休、しばらくは育児に専念する予定でいる。
「ンマー…。ロビンが卒業するまでは、って、我慢してたからなァ…」
春休み中に出産予定日を持って来て、ロビンに社会人1年目を全うさせただけでも理性的だった、ということか。
フランキーといえば、あんなにグダグダと悩んでいたのが嘘みたいに明るく、頻繁に自覚の無いノロケを口にするので、アイスバーグ的には少しウザい。
「ま、案ずるより産むが易し、ってことだな」
アイスバーグはぐぐっと大きく伸びをすると、間もなくやってくる義弟夫婦の車を出迎えに玄関に向かった。
End
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しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
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