そろそろ折り返し…よりは進んでいると思いたい。


フランキー、もっと普通体型になってくれないかなあ…
歩く武器庫なのはいい、同じサイボーグならバトーさんくらいになって欲しい…
フラロビというジャンルが伸びない原因てそれが大半だと思う。
せっかく男前なのに。


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花妻恋歌





遣らずの雨


とん、
と玄翁を振るうと、最後の釘が木材の中に埋まった。
肩で大きく嘆息し、丸い釘頭をそっと撫でる。
社殿の内側の壁板を一枚だけ、意図的に張らずにいたけれど、それも終に仕上げてしまった。
正真正銘、これで全て完了だ。
虫の大合唱が一気に、フランキーの周りに溢れかえったような気がした。


振り返る。
開いた戸口からは橙色に染められた日差しが長く斜めに差し込んでいた。
帰宅する時間も近い。
「……はあ……」
フランキーは寄った眉間を指の背で伸ばし、大きく吸い込んだ空気で
「そうそう」
と空元気を声にした。


「これこれ。忘れちゃなんねェなっ」
戸口に置いておいた紙袋を取り上げる。
社殿奥に据えた八足案の前に立つと、中から取り出したものを黄楊の櫛の隣に置いた。
小振りなキツネのぬいぐるみをふたつ。
「白っぽくてモフモフした感じ。アイツラに似てるだろ？」
女神の眷属狐の姿も見かけなくなって久しい。
懐かしくて寂しい笑みが、どうしたって口元に浮かぶ。


「修繕の途中で見つけた日本人形と毬さァ…。結局、どうしていいか指示くんなかったから、勝手に燃やしちまった。その代わり、と言っちゃァなんだけども」
一応、似たようなものを、と探してはみたのだけれど、何かがピンとこなくてぬいぐるみに落ち着いた。
ぬいぐるみのひとつひとつの頭を撫で、傍らの黄楊の櫛に指を滑らせる。
買った時よりも何故か、こっくりと艶を増した木肌にフランキーは切なく笑う。
鼻を寄せると花の香りが漂った。
椿油の匂い、愛用してくれているなら何よりだ。


「へへ…ホントにホント、これで最後だ！長いこと、お邪魔しました！」
ぱんぱんっと手を打ち鳴らし、頭を下げる。
そして、頭を上げる勢いで天井を振り仰ぐ。
「流石はおれ！の出来栄えだよなァ。宮大工としても、やってけんじゃねェの？」
道中、色々あったけれど、納得の仕事だった。
「ま…。神さんの住処は、ここ以外、作る気は毛頭ねェんだけどな…」
呟いた言葉の先が震えてしまった。
ああ、名残惜しいが帰るとしよう、
そう思った時、フランキーの耳に突然の雨の音。


「あ？」
社殿の中が暗くなっているのに気付く。
「雨…？」
戸口から表を見ると、さっきまでの橙色の夕暮れはどこへやら、辺りは篠突く雨に閉ざされていた。
廂からの雨垂れが縁で激しく跳ね返り、フランキーを一歩下がらせる。
景色は白く煙り、草の匂いを濃くした。


「初めてだなァ…。雨降ったの」
ザラザラと葉を打つ雨の音に耳を傾ける。
「ずうっと。おれがここに仕事しに来る日に雨降ったことなんざ、なかったじゃねェの」
雨が降ったら仕事は休みだと、そう女神に宣言してから一度もなかった雨模様。
それが今、初お目見えしているのが何だか可笑しい。





アンタも、別れ難く、思ってくれてんの？





「そうだと…嬉しいん、だけど、な…」
フランキーは腰を下ろし、外を見遣る。
「しょうがねェな。雨が止むまで、雨宿りしてるか…」
少しでもここに残る口実が出来た、
そんなことを考えた。





◇◇◇◇◇





「……ん？」
瞼が持ち上がり、暗い視界に光が飛び込み、自分が寝てしまっていたことを知る。
いつもと違う様子に一瞬、ここは何処かと思ったけれど、見慣れた床の木目に自分の手掛けた社殿の中だと分かる。
雨音を聴いているうちに眠気に負けてしまったらしい。
それにしても、ぐっすりと良く眠れた。
ふと、自分が枕にしている、何やら緋色のものが目に入る。
緋色、しかも、温かく、柔らかい。
そして香る、花の…


「あ、あれ？」
ぐるっと仰向けになり、ぱちっと開いた眼を上に遣る。
眼前に迫る、白い双丘。
その向こうに榊枝で顔（かんばせ）を隠す女性。
咄嗟にガバッと跳ね起きる。
そして跳ね起きてから、彼女の膝枕などという幸甚に在ったこと、白い双丘は白装束に包まれた豊乳だったことに気付き、フランキーは蹲りたくなるようなガッカリ感に打ちのめされた。



続く



遣らずの雨：帰ろうとする人をひきとめるかのように降ってくる雨