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フラロビのSS置き場。
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10年程前に、私を再びオタクの道に引き摺り戻し、果てにSS書きにしてくれた某作品が今秋、アニメ化されていたことを知りました。
気付いた時には3話が放映し終わっていた体たらくで、物凄いショックに打ちひしがれて身動きできなくなってたんです。
原作終了から10年経過しての、まさかのアニメ化!
こんなに嬉しいことなんてないです(感涙。
作者最大の有名作品は最近アニメ化されたんで、私が好きな方のアニメ化はないと諦めていたんですが……嬉しい…嬉し過ぎる。


そんなわけで数年放置の別宅に返り咲き、ジオシティーズ閉鎖を受けてのSS引っ越しをしゃかりきになってやってました。
アニメ化がなければ、このまま消滅も止む無し、の腹だったんですけど。
このタイミング、神がかってましたねえ…。
自分のSSを読み返して、やっぱり続きが読みたいわけですよ、自分で書くしかないんですけど。
しばらくはフラロビと、もう一方のCPと、掛け持ちになります。すみません。
こんなに萌えが再燃するとは自分でも思ってませんでした。


++++++++++









その喫茶店は賑やかしい商店街の端っこに在った。
正しくはフラワーショップなのだろう、店の間口には色とりどりの花たちが客を出迎えているのだから。
花の衝立の裏に、知る人ぞ知るカフェスペースがある。
美味しい珈琲が頂けるカフェも兼ねたその店がオープンしたのは今から3年程前のこと。
古い商店街にあって新参者の店だけれど、町の人は誰も人懐こい性質だし、何より店主が美人の独り者とあれば馴染むのは造作もない。


雨に濡れたような揺らぎを見せる大きなレトロガラスの引き戸を潜ると、花の香りが出迎える。
こっくりとした飴色の床が敷かれた細い通路を抜けると、四方を本に囲まれたサロンに出る。
部屋の真ん中には無垢の一枚板の天板テーブルが置かれていて、客はそこでアンティークチェアに腰掛け、珈琲を飲みながら店内の本を自由に読むことができる。
古書店の裏には、ガーデニングが趣味の店主が丹精込めて整えた小庭があり、四季折々の表情を見せており、レトロガラスの大窓越しに店内から楽しめる。
品の良い空間に流れるのはクラシックレコード、忙しない日常から切り離された、憩いの場だ。


表のレトロガラスに書かれた店名は『スバラシイコト。』







2.風信子ともて悩み種 (1)







春色が日に日に濃くなる昼下がり    を大きく回った時刻、サンジは古書店の扉を開けた。
埃っぽい通りの匂いから一転、店内から漂うのは挽き立ての珈琲豆の匂いと、それに微かに混じる花の香り。
そう言えば、店内に飾られたヒヤシンスが間もなく咲きそうだったことを思い出す。
聞こえてくるのはグスタフ・ランゲのピアノソロ曲、『花の歌』。
花が好きな店主らしい。


「あら、いらっしゃい、サンジ」
「ロビンちゅあん、逢いに来たよーぅ!今日も綺麗だねェ~」
落ち付いた柔らかな声で名前を呼ばれた途端、目玉からハートマークが乱舞する。
筋肉質の、女性に人気の『細マッチョ』ボディに、一分の隙もなくスーツをピシと着こんだサンジは、肌も白く顔付きも端正、金髪で碧眼とくれば『王子様』で通る筈なのだが、如何せん、口を開くと残念になるタイプだった。


「ほんの短い時間しか、君と会えない身の上が…辛い」
「うふふ。何にする?」
店主のロビンは彼の病気には慣れているようで、軽くあしらった。
女性美そのもののカーヴィなラインを無粋なエプロンに隠した彼女はまさに『大人の女』、であり、近隣の独身男性の意中の的だ。
ひとつに束ねられ片側に垂らされた長い黒髪も、知性に溢れた黒い瞳もミステリアス。
まだ二十代前半のサンジよりも年上の店主だけれど、『綺麗なおねえさん』というのはいつの時代も、若者にとって非常に魅力的な存在なのだ。


「ブレンド、濃い目で欲しいな」
彼女からすれば離れた年下の自分は頼りないだろうが、それならそれで「可愛く懐く弟属性」を前面に押し出せばいい。
ロビンのような「おねえさんキャラ」は甘えられるのに弱いに違いない、と自称『恋の狩人』は読んでいる。
「分かったわ」
オーダーを受けたロビンは、流れる手付きでドリッパーにフィルターをセットした。
白い繊指に指輪がはまっていないことはとっくの昔にチェック済み。
その指が、滑り落ちたサイドの髪を耳に掛ける優雅な仕草、長い睫毛を伏せて淡く微笑む表情に、サンジはメロメロとハートを飛ばさざるを得ない。


美女を愛でる至福の時間。なのに
「アウ、サンジ。バラティエも休憩時間か」
カウンターを乗り越える勢いでロビンの姿態を凝視するサンジを、しゃがれた声が呼んだ。
「チ…黙りやがれ。このクソ野郎」
美しい店主の姿を満喫するための午後のティータイム、折角のあれやこれやが瓦解する。
「お前のせいで隠れ家的雰囲気が台無しなんだよ…」
「ウハハ。そいつァお気の毒」
敢えて視界に入れないよう努力していたのに。
水色リーゼントのチンピラ様の大男、フランキーは豪快に笑った。


フランキーは二つしかないカウンター前のスツールの片方に陣取り、
「おら、こっち座れよ」
とサンジに隣の席を勧めた。
「ほんっと、お前っていつ来てもいんのな」
サンジは渋々フランキーの隣に腰掛ける。
短い休憩時間、ロビンを愛でることで癒しを得たいのに、大抵はこの中年もワンセットでいて、何だかんだで殆ど会話がそこで終始してしまうのが物悲しい。
「おれも休憩よ。おれんち、ここの隣だしな」
そう、フランキーはこの古書店隣の工務店が住まい、チンピラみたいな風体でも腕の良い大工の棟梁だ。


「ここで休憩する意味あんのか?お前、いっつもコーラじゃん、ここに来たらコーヒー飲めよ」
「コーヒーなァ…飲んでも喉の渇きがおさまんねェんだもんよ」
「そりゃコーヒーはドリンクっつーか、嗜好品だからな」
「コウチャ、ってのもお上品過ぎて」
「だったらここ来んなよ!」
足癖の悪さに定評のあるサンジはフランキーの脛に蹴りを入れた。


「フランキーはどちらかと言うと熱い緑茶派だから」
豆に湯を、細くゆっくり注ぎながら、ロビンがクスクス笑って話に加わる。
「緑茶も置いてくれりゃァなァ、ココ」
「あれもこれもで中途半端になるのが嫌なの。収納スペースだって新しく必要になるし」
「収納ならおれがお茶のコで作ってやるよ」
言うことが如何にも工務店の人間ぽい。


「いいの。結局、フランキーはコーラを頼むんだから、それでいいでしょ」
「ウハハ、違ェねェ」
ぐびり、とフランキーはコーラを呷った。
ロビンとフランキー、美女と野獣を地で行くふたり、傍から見ていて距離は結構近い。のを黙って見ているつもりはサンジにない。
「ヒヤシンス、咲いたんだね」
サンジは、カウンターに置かれたヒヤシンスの鉢植えを指差した。
武骨な野郎が興味なさげな花について語り、美しい店主を話相手に奪還する。


「ほんの少し、綻んだ程度だけれど」
花好きな店主は軽く釣れた。
「コーヒーの香りに交じって、ヒヤシンスの甘い香りがするよ」
「あら本当?鼻がいいのね」
「ヒヤシンスのグリーンノートは爽やかでいいよね。春の香りって感じ」
「男の人なのに。サンジは詳しいわね。さすが、ってところかしら」


そりゃあ花が好きなレディと分かっていれば、事前に花の勉強をするのは当然のこと。
基本的に女性は花が好きな生き物だから、一度覚えてしまえば汎用性のある話題なのだ。
案の定、フランキーは話題に置き去りで「ふうん」とか「へえ」とか相槌を打つだけだ。
正直、相槌もいらん、コーラ飲んで黙っとけ。
花蕾を綻ばせるヒヤシンスに目を遣って、ふと、その花色に何かを連想しかけた時、
「はい、お待たせしました」
サンジの前に馥郁たる香りを棚引かせるカップが置かれた。


「あ、ありがと」
サンジはカップの中の波紋を覗き込み、香りで鼻腔を満たすと、一口飲んだ。
「ああ…ロビンちゃんのコーヒーは美味いなァ…」
としみじみ言う。
コーヒーを飲むサンジの様子をじっと見ていたロビンは、お褒めの言葉を受けて、はあっと胸を撫で下ろす。


「サンジ相手だといつも緊張するわ…プロなんだもの」
サンジは商店街にあるフランス料理店『オービット』のオーナーシェフだ。
しかも、かの有名な三つ星店『バラティエ』のオーナーシェフ・ゼフが彼の祖父で、幼い頃からビシビシ扱かれて育ったらしい。
2年前、『オービット』の開店準備と共に、この商店街の住人となったサンジは、似たような時期に店を開いた古書店の美人店主と(一方的で)運命的な仲間意識があるのだった。



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しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
人型の何かです。

     
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