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フラロビのSS置き場。
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ジオシティーズ引っ越しの余波で、見切り発車もいいとこのSSをUPします。
見通しも立ってないし、置き場にも困ってムリヤリこじつけてのお題です。
ほのぼの、とも言い難いような、エロも…表現をマイルドにするしかない、しかも長丁場の予感。


SSの下敷きは、松任谷由実の『夕涼み』。
昔からとても好きな曲だったのだけれどアルバムに入ってるだけのマイナーな曲で、ずっと探してました。
ようやく彼女の楽曲がi tuneでごっそり聴けるようになって、その中に発見した記念SS。


以前書いた古書店のSSの舞台を、今回はまんま流用です。
一繋ぎ商店街にある喫茶店の店長がロビン。
今度は、原作通りの年齢のフラロビで、書架の某SSみたいな焼け木杭感、似たようなSSになるのはご容赦ください。


++++++++++





1.銀木犀と茜空





「ここにいたの」


声を掛けると彼は
「アウ、おかえり」
と振り返り、人懐こい笑顔を見せた。
「アパートにいないから、きっとここだろうと思って」
「ひとりでエアコンかけてんの勿体ねェかなって。熱ィから、水浴びがてら洗車してた」
「ホント、暑いわね」
「もう9月だってのになァ」


残暑厳しい折り、夕暮れ近い時刻でも太陽は粘っこく、じりじりと焼き付けてくる。
水を触っている彼は気にならないのかもしれないけれど、ガレージ周辺の湿度がとんでもない。
間もなくお彼岸だというのに、夏は健在。
ただ、ガレージの傍らには6メートル程に立派に育った銀木犀の樹があり、時折吹く風に最近咲き出した白い花たちが香気を乗せていて、その甘く涼やかな香りに秋の始まりをそこはかとなく感じる。


「ごめんね。折角のお休みなのに、説明会が入っちゃって」
「しょうがねェよ。天下の就活生だもんな」
その日の私は、日曜日にも関わらず、会社の説明会に奔走していて、暇を持て余した彼は、近所にある職場のガレージ前で社用車の洗車に精を出していた。
彼の愛車は泡だらけで、これから流すところだったらしく、手にしたホースからはダバダバと勢いよく水が出ていた。
彼も泡だらけで、言葉通り水浴びをしたのだろう、いつも得意げに立ち上げている前髪も消え、服も重たく色を変えている。


「ふふ。埃で茶色い車になってたから丁度いいかも」
「だと思って。お前の汗も流してやろうか?おら」
彼は躊躇なく、ホースの口を向ける。
「ちょ、ちょっと止めてったら!」
彼ならばこうするだろうと予測はしていたけれど、ちょっとしつこいくらいの放水を私は全身に食らった。


「うはは。どうだ?涼しくなっただろ?」
「もー…ずぶ濡れになったじゃない」
一度アパートに帰って、リクルートスーツを脱いできて良かったと思った。
一張羅に攻撃されていたら、明日からの就活に支障が出るところだった。
とはいえ、白いTシャツは肌に貼り付き、サブリナパンツも雫が垂れた。
「そういや、今日はグレーの下着だったな」
確信犯が茶化してくる。
「もう」
透けて見えるブラジャーに、帰るまでに乾くかしらと溜息をついた。


「前から思ってたんだけども、お前の持ってる下着ってどれも地味じゃねェ?」
甚く真面目な顔で言われる。
「仕方ないのよ。大きいサイズってあんまりお店にないんだもの、可愛いデザインのも少ないし…」
「デカ過ぎるのも難だな。おれもゴムのサイズと一緒だな」
軽口を叩いて、彼はホースを車に向ける。
私は彼の近くに寄って、泡が濯がれていく様を見守った。


「社会人になったらバリバリ稼いだお金で奮発するからいいの」
「すまねェなァ…甲斐性無しの亭主で」
彼の口調は不真面目のような真面目のような、冗談めかしてはいるものの後者が彼の本心だと分かっているから
「私が学生やってるから…あ、見て、虹」
と私は話題をずらした。
彼はわざと高く広く水飛沫を飛ばし、私に大きな虹を見せてくれた。
「きれいね」
「ん」
こんなささやかな時間がとても大事なものに思う。


「洗車、私も手伝うわ」
「汚れるぞ?」
「もうとっくにびしょびしょだもの、構わないわ」
「したら、拭き上げを手伝ってくれよ。ガレージん中の手洗い場に雑巾あるから」
「分かったわ。持ってくる」
ガレージに向かう私の後ろで、彼が本格的に仕事を始めた水音がした。



**********



バンの上に押し上げられた私が、ルーフを拭き上げた頃には太陽はだいぶ傾いていた。
お陰で暑さもだいぶ治まったので、私はピカピカになった温い鉄板の上にうつ伏せに転がった。
磨き上げたルーフには夕日が金色に染めた雲が写り込んでいる。
「手伝いありがとな」
背の高い彼は難なく、私のことを覗き込んで来た。
「これくらいどうってことないわ」
頭を撫でくりしてくれる大きな手の平を心地よく受け入れる。
「あ、一番星が出た」
という声に誘われて、彼と同じ空を見上げる。
茜空に輝く白い一等星。


「なァ?」
「なあに?」
「お前の希望する就職先って…」
「何?聞こえないわ?」
らしくなく、小さな声だったから訊き返すと
「あー…、あ、ほら」
と空を指される。
彼の指の向こうに流れ星が、つう、と滑って消えた。


「願い事三回言えた?」
「ムリ、速過ぎる」
彼は両手を振って、無理、を表現した。
「ねえ?」
「うん?」
「あなたの願い事って…何?」
一番星を見上げている彼の瞳がほんの少し、細くなった。


「そういうのって、ヒトに言ったらダメなんじゃ?」
「うふふ。そうだったかも」
彼に促されてルーフに腰かけると、がっしりした腕が私を地面に下ろしてくれた。
「…おれの願い事は、叶いそうになったら、教えてやるよ」
彼は、はにかんだように言うとやさしいキスをこめかみにくれた。
「来年も、再来年も、こうして一緒にいられたらいいわね」
彼の腰に腕を回す。
私にとっては、彼とのどんな小さくて細やかなことも、かけがえのない想い出になった。


夕間暮れに涼しい風が吹く。
風はうっすらと銀木犀の香りがした。












けれど私達には、来年の夏、は来なかった。
年若い私達にはそれぞれに夢があり、それぞれの道を歩くことにしようと、早くにした婚姻関係を解消することになった。
私たちは、決して嫌い合って別れたわけじゃない。
私は、自分が彼を縛ってしまっているような気がずっとしていたから、彼からの提案を拒む真似が出来なかった。
彼は自由な風だから、風を縛ることは出来ないから。


ただ、私は彼のことが大好きだった。
彼は私の恩人で、私は誰よりも彼のことが大好きだった。
その後、付き合った人もいるけれど、どうしても彼と比べてしまい、彼よりも愛することは出来なかったし、彼以上のひとを見つけることも出来なかった。
銀木犀が咲く度に、彼の願い事が叶ったのかが気になって、彼の願い事は何だったのかが気になった。


私たちは、決して嫌い合って別れたわけじゃない。
だから、質が悪いのだろう。
その事実は、儚い夢に姿を変えて、私の心の中に沈殿した。
あれから10年近くの年月が流れ、年若いと言われる年齢から遠ざかった今も、
あの日、彼が呼び込んだ虹の足元に埋まった夢を、私は探している。



next



フラロビ、思い浮かべてみてください。
じりりと暑い夏の日の もの寂しげな夕の事
ふとした小さい事だけど かけがえのない日になった
そこには誰がいましたか。
http://shindanmaker.com/466093
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しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
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