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フラロビのSS置き場。
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だんだん好きになって そしてだんだん恋になる



ロビンちゃんは革命軍に身を寄せている間にイワンコフの美白エステを受けたに違いない。
クレオパトラモチーフのロビンちゃんもミステリアスでいいけれど、黒髪に映えるのは色白肌だと思う。
健康的小麦色肌は、柔肌感と薄幸感が薄まるから、裏文的にも色白の方が好み。


++++++++++





3. 彼女に触れる理由


「大丈夫、茶飯事だから。気持ちだけ有り難くもらうわ」
ロビンはトレーから片手を離し、テーブル上の文房具を指し示す。
「私としてはそっちの方をしっかりやってくれた方が嬉しい…」
言葉が尻切れトンボになる。


ロビンの手がフランキーの手の平に掬い上げられた。
まじまじと観察され、それが何とも気恥ずかしい。
大きくて分厚い掌に取り込まれたロビンの手は華奢過ぎて、まるで子供の手のように見えた。
思いがけず、重ねた手の平で行われる体温の交換に、ロビンはクラクラと目眩がする。


「何だか」
フランキーの親指がやさしくロビンの指先を擦る。
「さっき、手が荒れているように見えたのよ」
「……」
「冷てーし。ちょっとやっぱ、荒れてンな」


武骨な、という言葉がとてもしっくりくる手指に温かく包まれる。
すっかり、大人の男の手だ。
初めて会った頃は、フランキーの方が第一関節分くらい短かい指だったのに。
肌の上をフランキーの温もりが移動する度に、ぞくり、と痺れにも似た震えが全身を駆け巡った。
フランキーから見えぬよう、前髪で作った陰で蛾眉が寄る。


「もう、年なのよ」
20代も後半だしね。
ロビンが自嘲気味に小さく笑う。
大きな手の中で、自分の指同士を擦り合わせて見せた。
「お肌は若い子に敵わないもの」
「う…そんなつもりじゃ…」


ロビンの明らかな本心からの言葉に、フランキーが見るからにうろたえた。
お互いの年齢差を感じさせる話題はタブーだと自戒している分、こう見えて、彼女に対しては単語選びにも神経質になっているくらいなのに。
ロビンの反応は予想外だった。


確かに指先は少し赤くなってはいたけれど、スベスベして気持ちいいし。
トシだ、何てカケラも思ってねーし。
何が悪かった?
添えたセリフの組み合わせに問題があったか?


フランキーの頭の中を自問自答がグルグルする。
「本当に大丈夫よ」
手を握られたままの状況に耐え切れず、ロビンは手を引っ込めた。
「この仕事には水仕事がつきものだもの。後でたっぷりハンドクリームを塗り込んでおくわ」
フランキーの言葉が真心から出たものだということはロビンだって分かっている。
年だと言ったのも嫌味で返したわけでもない。
そう言うしか、他がなくて。


取り繕う術をなくした子どもみたいな表情をしているフランキーに、可哀想な事をしたわ、と胸が痛む。
「心配してくれてありがとう」
ロビンはフランキーの髪に手を伸ばし、いいこいいこ、と撫でてあげた。
柔らかな水色の髪が指に絡まる。
逆立ててあるヘアスタイルの印象とは裏腹に、案外、猫っ毛で触ると気持ちがいい。
フランキーはまだ何か言いたげな様子だったけれど、ゆっくりと目を閉じて、ロビンのされるがままになった。


ロビンに触れてもらえるのは嬉しい。
でも内心、『いいこいいこ』はガキにするもんだよな、と項垂れる。


「あンの野郎共が何杯もお代わりすっからロビンの洗いもンが増えんだ」
だからロビンが手荒れして、スーパーなフォローが変な方向に飛んでって、ロビンに気を遣わせて、結局おれが子ども扱いされるハメになるんだ。
結論。
あの客共が悪い。
に落ち着く。


「ああ、チクショウ」
フランキーは片手でトレーをロビンの手ごと支えると、もう片方の手でパッパッパと彼女の頭や肩なんかを、埃を払うようにして軽くはたいた。
「な、何?」
「よし」
仕上げにもう一度、今度は両手で両肩をポンポンと叩く。


「もう…一体なんのおまじないなの?」
ロビンは呆気に取られながら乱れた前髪を整えた。
「目垢落とし。あいつらの、絶対ェ験が悪ィと思うんだ」
「はい?何のこと?」
「へへ。分かんねェならいいよ。気にしない気にしない」
フランキーは明るく笑い、ガタガタと椅子を引いた。
「さあてと。勉強勉強」
「変な子ね」
ロビンが苦笑しつつ、シンクへと去っていく。
フランキーはロビンの後ろ姿をチラリと目で追って、はあっと太く息を吐き出した。


「あの客野郎共がつけた目垢が見えるみてェで気に入らねーからよ」
元々あるんだかないんだか分からないモノをはらったところで落ちたんだか落ちてないんだか分からない。
でも、少なくともフランキーの気はちょっと晴れた。
ロビンには笑われたけど。
フランキーの身体が、ずる、と椅子に沈む。


日増しに強くなる独占欲。
途方に暮れるくらいに膨らんでいるように思える愛情。
想うのは自分ばっかりで、
彼女には手のかかる弟くらいにしか思われてないんだと、
日毎夜毎に言い聞かせているのに、馬鹿な頭は物分かりが悪くて。


少しでも彼女に触れる理由が欲しい。


「変な、子、かァ…」
手の平をじっと見つめる。
ほんの数分前までこの中には嫋やかな手が納まっていた。
ゆっくりと指を折って、記憶にある手の感触を反芻する。
今度は反対の手で、アロハの胸を押さえてみる。
でかくてゴツい自分の手で触っても気持ち良くも何ともない。
あれは魔法の手だ。
少し触れただけで、こんなにも心を震わせる。


今は理由をつけないと握ることの出来なくなった手だけれど、出会った頃は堂々と手を繋げたっけなあ、とフランキーはふと思い出したノスタルジックな光景に小さな笑みをこぼす。
さっきの手荒れ云々だって、ロビンに触れるための口実に過ぎない。
女ったらしの友人が熱く語っていた、『自然な流れでレディに触れるための導入会話』とやらを、フランキーなりに密かに実践してみたわけで。
友人の言う通りスキンシップは叶ったが、「肌に触れる、これ即ち心に触れる第一歩」の極意までは到達できなかった。


手を握っただけで舞い上がっちまったってのに。
あいつみてェに喋り続けんのはやっぱ無理だわ。
あンのグルマユ、女への口説き文句は立て板に水だもんなァ…。


手を握るだけでこんなに緊張するなんてな。
以前は月替わりで彼女を変えていたような、かなり女慣れしていた筈の男としては余りにも不甲斐ない反応。
自分でも分かっているけれど、どうしようもないものはどうしようもない。
ロビンだけは駄目なのだ。
再び、ロビンの感触を思い出す。
「ロビンの手……って、あんなに小さかったっけ?」


あの白い手は。
昔はこの手よりもずっと、大きかった。


窓からの光に自分の手を透かして見る。
指の間から、テーブルの上に飾られた薄紫色の紫陽花が覗いた。










**********


今から10年前。
蔓を伸ばす朝顔が千変万化の色相を競い合う季節。


今現在世の中は、小学生のパラダイス、夏休み。
毎日、太陽がギラギラと照りつけ、朝早くから茹だるような暑さで誰も彼もがげんなりしている。
そんな中、フランキーはひとり元気だった。
学校がない分チカラが有り余っているのか、早朝のラジオ体操も皆勤、育ち盛りでバテ知らずの胃袋はトムズワーカーズの誰よりも朝ごはんを食べる。
遊び仲間が、「宿題の時間」として表に出てこない午前中は、工務店の裏にあるトムの工場に入り浸り、師匠の仕事ぶりを食い入るように見学していたり、工場の隅に置かれた廃材を使い、何かしらを作ったりして過ごしていた。


7月中に夏休みの宿題に手をつけるなんて考えは最初から頭に浮かびもしない。
もっと言えば、宿題なるものは8月のラスト3日くらいでやるもんだと思っている。
でも自由研究の工作は、7月のうちに幾つも完成していたりする。
智恵がついてからの夏休みはこうしてストックした、そしてやたらと出来のいい工作を友達に配り、代わりに計算プリントや読書感想文なんかをやってもらったり見せてもらったりして、楽をしたのはいい思い出だ。


フランキー少年にとって、いつもと変わらない朝だった。
この日に出会ったひとが、10年後の自分を酷く悩ませることになるなんて、夢にも思わなかった。



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しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
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