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フラロビのSS置き場。
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ロビンも三十路だから早いとこ子作り出来る環境にしてやって欲しい。



ロビンの過去編はあまりにも重たくて悲しくて、コミックスもアニメも読み返せない、観返せない。
永い間を孤独に心を無くして生きてきた薄幸美女は大好物なんだけど、世界中から追われる少女が独りで生きていくために手放しただろう様々なことを思うと、切なくて涙が出る。
そんなことを言いながら、SS で自分でも堕とす、唯一無二の存在に掬い上げさせるために。


++++++++++







5. こんなにも長い幸福の不在


「そうか。留学することに決めたのか」
「はい」


古書店の奥にある二間続きの座敷で座卓に向かい合い、クローバーとロビンは何やら険しい顔をして語り合っていた。
座卓の上にはクローバーが取ってくれた出前の寿司桶が何故かみっつ、あった。
うちひとつはとっくに空っぽで、生姜まで綺麗に平らげられている。
完食した主、何故かちゃっかりそこにいるフランキーは、畳の上で寝転びながら古書店から持ち込んだお気に入りの本を眺めつつ、途中で手が止まっている残りふたつの寿司桶の中身を虎視眈々と狙っていた。


フランキーとクローバーの頭には、お揃いの大きなタンコブ。


「新学期は向こうで迎えます。夏休みいっぱいで発つ予定です」
「そうか」
深刻なロビンの顔につられて、自分も一緒になって眉根に皺を寄せていたことに気がついたクローバーは、少し表情を緩め、眉間を掻いた。
「急、じゃな」
「いいえ」
ロビンは小さく首を振る。
「心のどこかではきっと…ずっと考えていたことだったんです。それが今、実現しただけで」
クローバーの笑顔に応え、ロビンも小さく微笑んでみせた。


「本当は叔父さんのところで仲良く上手くやっていくのが一番いいことだって分かってます。でも……私はいつでも厄介者で……叔父さんはやさしいのだけれど……どうしても叔母さんが。叔父さん、叔母さんに弱いし」
ロビンの懸命の笑顔に影が差す。
「もしかしたら、公立の一番いい高校に入学すれば叔母さんも自慢に思ってくれて……態度も少しは軟化してくれるかと思ったのですけれど」


生まれつきの頭脳明晰さと努力の甲斐あって、ロビンは最難関校に全科目満点という快挙を成し遂げ、合格を果たした。
公立校を選択したのも、偏に親戚宅の経済的負担を思ってのことだ。
「でもかえって、機嫌を損ねさせてしまったみたいで」
居候先にはロビンと同じ学年の、同じ地元中学校に通う従妹がいた。
従妹も同じく受験をしたのだが、お世辞にも出来が良いとは言えない彼女は、滑り止めの滑り止めに受けた私立に辛うじて引っ掛かった。


叔母は自分の娘にだけはお金をかけ、進学塾やら家庭教師やら、手厚いサポートをした。
なのに、自分の娘が出した結果は惨憺たるもの、反面、故意に放ったらかしだったロビンが名門校に主席合格してしまった事実は、世間に対して自慢できるどころか、恥を掻く結果になってしまったのだ。
従妹は「アンタさえうちにいなかったら私はもっとちゃんと受験勉強ができた」と言い、叔母は「アンタがいるからあの子は精神的に不安定になり、万全な状態で受験に臨めなかった」、と責めた。
高校に通うようになってから、ロビンへの風当たりは更に強くなった。


「何をやっても、駄目なんです」
何をやっても裏目に出た。
上手くいけばでしゃばりと言われ、悪い方に転がれば全てロビンのせいにされる。
脳裏に浮かぶ、様々の不条理。
己の不遇さを嘆きたくなくとも、布団の中では涙が自然と流れた。
ロビンの小さな拳が、膝の上でぎゅうと握られた。
「私はもう……あそこにいちゃ駄目なんです。いるだけで…迷惑をかける。きっと皆が、不幸になる……」


クローバーには皆分かっていた。
8歳の幼いロビンが、両親の遺したハガキに書かれた住所だけを頼りにクローバーの元に助けを求めに来たあの日から、皆分かっていた。
唯一の身寄りの家には、彼女の幸せがどこにもないことが。
その後も幾度か、ロビンはクローバーの元に逃げてきた。
連れ戻される時に流す、ロビンの涙がクローバーの胸を痛ませた。
あまりの不憫さに、クローバーはロビンを引き取ろうと申し出たが、体裁が悪いから、ときっぱり断られた。
「次に逃げ出したら、あの爺さんを誘拐犯だって、警察に通報してやる」
叔母にそう脅されてから、ロビンはクローバーの元に駆け込むことをしなくなった。


クローバーは温かさのない家庭で育つロビンをいつも気にかけていた。
高校に入り、多少の移動が自由になったロビンが数年ぶりに元気な顔を見せた時には泣いて喜んだ。
時折、少女らしからぬ影のある表情を見せることが気掛かりだったが、最悪の環境で育ったわりには最悪の結果にならなくて良かったと、長年の胸の痞えが取れた思いがした。


ロビンにとっても、受験結果をクローバーだけが手放しで喜んでくれたことが本当に嬉しかった。
クローバーだけが、偉い、凄い、誇りだ、とロビンを褒め讃えてくれた。
ロビンはクローバーを実の祖父のように思い、慕っていた。
「ロビン。おまえさんのせいじゃないぞ」
クローバーはそんな慰めしかかけられない自分が歯痒い。


「それにしても、あの機関の奨学生に選ばれるとは…定員が毎年1名の狭き門じゃろう?流石じゃな」
クローバーはまるで我が事のように、得意気に髭を撫でた。
今もこうして、クローバーだけが親身に話を聞いてくれ、彼女の努力と才能を認めてくれる。
ロビンはここに来て初めて、頬っぺたをピカピカさせ、「はい」と返事をした。
「学業優秀な生徒しかいないあの名門校で、常に1位の成績、それもどの科目も満点以外取ったこと無しではの。話が来るのも、当然と言えば当然じゃな」
各年一名限定で奨学生を海外留学させてくれる、とある機関があり、ロビンはその選抜試験を見事トップの成績で、権利を勝ち得たのであった。


「これで向こう2年は学費無料ですから。寮に入って勉強漬けです。向こうの学校で頑張って、特待生になれれば大学での学費免除の道も開けるかもしれないし…」
最高の環境で、志半ばで倒れた両親の研究を、私が引き継げるかもしれない。
ロビンの瞳はキラキラ輝き、クローバーには彼女の心が希望に満ち溢れているのが分かった。
「留学はしたかったけれど、お金がないし…無理だと諦めていたのだけど。学費無料の権利を勝ち取れて、本当に良かったです」
ロビンは安堵の息を漏らした。


「ロビン?学費は無料だと言っても、その…多少の出費はあるじゃろ?大丈夫か?」
基金が賄ってくれる支出には限度がある筈じゃ、と折角のロビンの瞳を翳らせるのを心苦しく思いながら、言い辛いことを切り出した。
「身の回りの物は実費じゃろうて。何ならわしが肩代わりしても…」
ロビンは、クローバーがかけてくれた心配を有り難く受け止めながら
「大丈夫です」
と答えた。


「叔母さんが、喜んで出す、と言ってくれました」
「ほほう。珍しいことがあるものじゃ」
クローバーが嫌味を隠さずに言う。
ロビンが逃げ込んでくる度、彼女はいつも同じ服を着ていた。
サイズの合わない、薄汚れた、従妹のお下がりを、いつも着ていた。
好きなようには食べさせてもらえないのだろう、ロビンは背ばっかり高い、ガリガリの痩せっぽちだった。
大きな瞳が一際大きく見えた。


それがどうだろう。
クローバーは、今、目の前に座るロビンに目をやった。
そんな食環境でよくもまあ、こんなにも胸を豊満に出来たものだと感心する。
確かに全体的にスリムだが、尻から太腿にかけたラインも既に大したものだ。
「……オルビアもスタイルのいい子じゃったから、これも血かのう…」
「何の話ですか?」
少しチクリとするロビンの口調に、クローバーはタンコブを擦り擦り、ゴホンと咳払いをした。


「叔母さんの了解があるのなら良かったの」
クローバーの言葉にロビンは笑顔を作ったものの、それは些か暗く、爺はそれを心配げに思ったが
「叔母さんは、多少の出費があっても、私が家を出ることの方が嬉しいみたいです」
の言葉に、「ああ」、と納得した。
私は不在を慶ばれる存在。
それはいつも、ロビンの心に大きく圧し掛かる現実。


私のレゾン・デートルは、一体何?
一体どこにあるの?
本当に、この世に存在しているの?
探せば、見つかるの?
ロビンの存在を無償で受け入れてくれる存在の不在は、彼女の心をどこか冥い場所で堂堂巡りさせていた。


「そう、か…」
クローバーは噛み締めるようにして、息と一緒に言葉を吐き出した。
うんうん、と頷きながら、もう一度大きく息を吐く。
「ロビン」
「はい…」
「ロビン。この先、金が要り用になることは多々あるじゃろう。その時は、ワシに言いなさい」
「はかせ…!」


ロビンの項垂れていた首が前を向く。
両手でもって制し、そんなことはとてもじゃないけれど頼めない意思を全身で表現する。
「私、そんなことをお願いするためにここに来たんじゃありません!私は博士に無心しに来たんじゃない…!こんなにも良くしてくれた博士に、お金の話なんて…」
ロビンの大きな瞳が涙色に濡れ始め、それ以上は言葉にならず、唇を噛むことしか出来なくなった。


「ロビン、おまえさんが苦労していることはよう分かっとる。ワシにすら顔色を窺って…気の毒な子よ」
沁み入るようなクローバーの声色に、堪えている涙が重力に負けそうになる。
「じゃがな、ワシに遠慮なんかせんでいい。叔母さんに頼むにしても遠慮が働く。どうせ同じ遠慮をするのなら、叔母さんにするよりもワシの方がマシじゃろう?」
クローバーの手が伸びて、ロビンの頭を「いいこ、いいこ」と撫でてくれた。
「…はい」
ロビンの唇が小さく、素直に動いた。







「ささ。食事の続きをしよう」
辛気臭い話はおしまい!とばかりにクローバーが明るい声を出す。
「せっかくの鮨が悪くなる前に食べてしまおう」
「はいッ」
ロビンも目尻を押さえ、明るい笑顔を見せる。
「私、お寿司なんて本当に何時ぶりなのか分からないくらい」
「ははは、そうじゃろうの」
クローバーもロビンも箸を持ち直した、が、いつのまにか、寿司桶はどれも空になっていた。
みっつの桶に残るのは、緑色の葉蘭のみ。


「って、くおら、フランキー!」
流石にクローバーの雷が落ちる。
「おまえと言う坊主は、客人の食事まで…」
けれどフランキーは堪えておらず、クローバーの振り上げる拳骨から逃げ回ってはいるものの、「おれ知らねェ」、「食ってねーってば」と悪びれる様子もない。


「いいですよ、博士。子どものしたことですし」
「いや、しかしロビン」
ついさっき、寿司を食べるのは久方ぶりと言っていただろうに…
諦め顔のロビンにかける言葉もない。
ロビンはクローバーとフランキーの間に入り、にっこりとした顔を傍らのフランキーに向ける。
フランキーは自分の味方になってくれた綺麗な笑顔に、子どもらしい人懐こい笑顔を返した。


「私の分のお寿司、美味しかった?フランキー?」
「うん。美味かった」
「そう」
その言葉を受けて、即座に抓り上げられる、フランキーの耳たぶ。
「い、いだだだだ!」
「やっぱり食べたんでしょ。嘘はいけないわ」
「わーごめんなさいごめんなさい」
フランキーは一生懸命、ロビンの指を振り払おうとするけれど、距離を取ろうとすればするほど、耳は団扇のように広がって痛いだけ。
ロビンの細い腕は意外と力が強かった。


「欲しいと言えばあげるんだから、一言言いなさい。勝手に食べちゃうのは駄目。嘘つきも駄目。分かった?」
「あだだだ!」
「返事は?」
「はいッ!分かりました!お願いですから放してくださいいい!」
「分かったのなら、よろしい」
ロビンはフランキーの反省の弁を受けて、ぱ、と手を放した。


痛む耳をさすりさすり、大粒の涙を浮かべた目がロビンを見上げる。
泣かせるつもりはなかったが、ロビンだって、後から食べようと大切に残しておいたイクラとエンガワを思うと泣きたい気分なのだから痛み分けだ。
これに懲りて反省したのなら許してあげよう。
涙に濡れるフランキーの視線が、白いワイシャツを威風堂々と膨らませる、ロビンの胸元に落ちたと思った瞬間。


ふにゅ。


フランキーの人差し指がロビンの乳の天辺に突き刺さる。
小学生の短い指は面白いくらいの勢いで、あっという間にめり込んだ。
ロビンの頭の中が真っ白になった。
「何コレ!すげーやわらけー!」
真っ白になったけれど、フランキーの勝ち誇った声にムカっとし、現実に戻ってくる。
「このッ…!」
ロビンはすかさず拳を大きく振り上げた。
が、それを振り下ろすべき対象は、既に脱兎の如く逃走した後だった。
天高く、ロビンの拳がプルプル震える。


「い、一度ならずッ、二度までも…ッ」
「フランキーのヤツ…ええのう…」


不用意に漏らした言葉のせいで、クローバーは本日ふたつ目のタンコブを作る破目になった。



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