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フラロビのSS置き場。
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初めて言葉を交わした日の その瞳を忘れないで


コミックスの70巻を読んだ。
リーゼントのバストアップなら違和感がないのに。
アニキの行き着きたい場所がもう分からない。


++++++++++





6. 守ってあげたい(前編)


「あれ?」
「あ」


博士宅でお腹一杯、お寿司をご相伴に与ってから3日後。
夏休みの工作として作成していた『投石機能付き巣箱』が原因不明のジェノサイド投石を開始して、トムの工場を穴だらけにした結果、またしてもアイスバーグがブチ切れたため普段通り避難してきた古書店で、フランキーはデカパイで黒パンツが印象的な少女・ロビンと再会した。


今日のロビンは制服姿ではなく普段着で、レジ台前の椅子に腰かけ、本を読んでいた。
白とすみれ色のチェック柄のワンピースは色の白いロビンによく似合い、ポニーテールもどことなく寛いで見える。
ロビンは条件反射で、前回自分に狼藉を働いた小学生の出現に、胸元を両手で押さえて上目遣いで睨みつける、という警戒態勢をとった。


「何してンの?」
海パンにゴーグル姿の小学生男子が訊ねた。
「自衛しているのよ」
ロビンは更に身体を縮こめた。
「ジエイ?」
「自分で自分を守ってるの。エロ小学生から」
「ふーん」


フランキーはロビンの言葉を他人事のように受け流すと、いつもの場所にスタスタとやってきて、いつもの本を引き抜いた。
その本を抱えて、ロビンの傍らの上がりかまちに腰を下ろす。
警戒心顕わのロビンはフランキーが本を読み出しても、彼に対し身体を正面に向けることを怠らない。
胸は完全防備。
マキシ丈のワンピースの裾は、捲り上げられている間に現行犯を捕まえられる。
そんなロビンに、フランキーはワザとらしく肩を竦めてみせた。


「触んないってば。安心してよ」
「本当?」
ロビンが疑心暗鬼丸出しで瞳を細めた。
「だってつまんないじゃん。今みたいに警戒されてちゃ。ああいうのは不意を突くのが面白いんだから」
「なっ…」
「ロビンは男心が分かってねェなァ」
と小学生にボヤかれる。
止めに
「ロビンて見た目よりも、中身はガキだな」
と生まれて初めて言われたフレーズで馬鹿にされた。


とんでもない屈辱だった。
大人びたロビンは同年代の男子にだって「ガキ」なんて言われたことはない。
同年代の誰かを心の中で、「子どもね」と思うことはあったとしても。
ロビンは「海パンのくせに生意気よ」と言い返してみたが、「海パン」はフランキーにとってダメージにはならないらしく、むしろ誇らしそうな顔をされてカチンときた。
これ以上、海パン少年に「ガキ」扱いされては堪らないと、ロビンは背筋を伸ばして腕を下ろし、警戒態勢を解除する。
『私の方がお姉さん…私の方がはるかに年上…』
こほん、と一つ咳払いをして気持ちを落ち着けた。







それからしばらくは、ふたりとも黙ってそれぞれの読書を続けた。
相変わらず、古書店の空気はひんやりしていて、本が全ての雑音を吸いこんでいるかのように店内は静かだった。
コチ、コチ、と古時計が正確に刻む音だけが、どこからか小さく聞こえた。


始めのうちは、それでもフランキーが何か仕掛けてきそうな気がして、水色の髪の毛をチラチラ監視していたロビンだったけれど、そのうちに本の世界に没入していた。
だから
「それでおれが訊いたのはさ、どうしてロビンが店番してンの?ってことなんだけど」
との問いかけを理解した時には、時間経過の感覚が少し曖昧で、フランキーに対する警戒がすっかり解かれていた。


「ああ、そうよね。説明がないと分からないわよね」
ロビンが顔を上げると、フランキーは既に本を読み終えていたようで、彼の愛読書はきちんと元の場所に返されていた。
「あの後、博士と話してね、夏休み中はここに住まわせてもらえることになったの」
「夏休み中?」
それってすっげェ長いじゃん、と、フランキーの目が大きく開かれる。


「うん。8月の終わりくらいまで、かな?それで、ここにいる間はお手伝いでお店番しようと思って。私、読書が大好きなの。ここには読み切れないくらいの本がそれこそ山のようにあって、素晴らしいわ」
普通の人々にはただの古本にしか思えないだろうこれらは、さすがはクローバーの店というだけあって、ロビンからしたらどれもこれもが目を見張る価値ある蔵書の宝庫だった。
「このお店にお客が来ないのも仕方ないのよ。ここの本はどの分野にしても些か学術的過ぎて、一般教養の範疇を越えているもの。突出した専門的知識か、歴史的探究心への理解がなければ興味が湧かなくて当然よ」
「ふうん」


フランキーは相槌を打つだけだった。
こんな話は確かに小学生につまらなかったわね、と、思わず長々と語ってしまった自分の失敗を素直に認める。
それにしても、束の間とはいえ私が隣人になることに特に感想もないのかな、とロビンが思っていると
「そんなに長くここにいることにしたのはさ、ロビンが今住んでる家の人と仲良くないから?」
と非常にストレートな図星が飛んできた。
言った本人は少し、何かを考えているような顔をしている。
フランキーに図星を指される、なんて想像もしていなかったから、ロビンはついつい目を丸くしてしまった自分に苦笑してしまった。


「何かおれ、可笑しいこと言った?」
少年の頭が傾げられる。
「ううん」
ロビンはふるふると首を横に振った。
「意外と話、聞いてたのね。お寿司にだけ集中していたわけじゃなかったんだ」
「聞いてて分かったのはそこんとこだけ。後は難しくて、何を言ってるンだか分かんなかった」
自分に向けられる瞳には、興味本位の色はない。
淡い空色の瞳が真っ直ぐにロビンを見上げてくる。
年端もいかない瞳なのに、その中に輝く星はとても力強くて。


ロビンは読みかけの本をパタリと閉じると、膝の上に置いて
「そうよ」
と答えた。
「この間も言ったけれど、私の両親は私が小さい時に亡くなってて、それからは叔父さんの家に引き取られて育ったの。叔父さんと叔母さんと、私と同い年の従妹がひとり。でも……」
ロビンの口が固まった。
大きく息をついてから、言葉を続ける。
「でも…そこのおうちの人は私が……好きじゃないのよ」
自分の言葉に胸が痛む。
ロビンは自嘲した。
自分で言って傷ついていたら世話がない。


「だから叔父さんたち家族にとっては、夏休み中、私を預かってくれるところがあるのなら万々歳だし、私にとっても……私が在ることで険しくなってしまう彼らの顔を見て、心が苦しくなる生活をしないでいいから…お互いにとって、いいことで…」
カリ、とロビンの爪が本の表紙を掻いた。
「要するに私は、逃げてきたのよ」
私が存在することは誰かが迷惑をすること。
私の存在は罪なのか。
このことを考えるとロビンの思考は冥い迷路に迷い込む。
ふと、力むロビンの手の上に、温かな何かがポンと置かれた。


思考が現実世界に戻ってくる。
見ると、彼女の手の上には、彼女のそれよりも一周り以上小さなフランキーの手が重ねられていた。
「フランキ…」
「ロビンは笑って話してるのに…何だか、ロビンの手が苦しそうだった」
「……」
「この間も時々、ロビンの笑ってる顔がお面みたいに見えた。今もそう」
ロビンの心臓がぎゅうと締めつけられる。
知り合って間もないと言うのに。
この空色の瞳はロビンの苦渋のサインを見逃さず、それに応えてくれた。


鼻の奥がツンと熱くなる。
ロビンはフランキーの温もりを嬉しく思い、その手の上に、もう片方の手を重ね、きゅっと握った。
「フランキーはやさしい子ね」
ロビンの行動に、今度はフランキーが面食らった。
けれど、ロビンの笑顔がさっきまでの泣きだしそうなものではなくて、とても綺麗なものに変わっていたから、
「えへへ」
と赤い顔で照れ笑いをしてみせた。


「ロビンには離れて、遊べなくて寂しい友達はいねェの?」
きっと話が悪かったんだ、とフランキーは話題を変えた。
フランキーにはたくさんの友達がいる。
商店街仲間に限定しても、果物屋の極道女ナミや、工具店のネガティブ星人ウソップ、骨董店の剣道馬鹿ゾロ、開業医宅の深窓令嬢カヤなどなど、一緒にいて楽しい仲間ばかりだ。
友達と日が暮れるのも忘れて遊び回っていれば、いつも笑っていられる。
自分がそうだから、きっとロビンもそう。
この話だったら、ロビンも明るく笑いながら話すに違いない、フランキーはそう考えた。


けれど。
「私には……離れて寂しいくらいに親しい友達はいないの。残念なことにね」
ロビンはまた寂しそうな笑顔になって、申し訳なさそうに言った。
フランキーの気持ちが分かるから、彼を喜ばせるような返事をしたいのに。
ロビンは期待に応えられない自分に唇を噛んだ。


「何で?」
家族もいない、友達もいない。
こんなに綺麗で人当たりもやさしいロビンの周りに誰もいないことが、フランキーには理解出来ない。
「私ね、今は違うけれど……学校で苛められっ子だったの、ずっと」
フランキーの顔が、何か嫌な匂いを嗅いだみたいに顰められた。



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