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フラロビのSS置き場。
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これといった具体的なきっかけはないと思う。


一方のフランキーはと言うと、徐々に?、としか言いようがない。
フランキーがロビンを助けた動機はトムの遺志を汲むためであって、その上、彼がお節介焼きで人並み外れた人情家だったからで、一件落着後までロビンの傍にいたい欲求はまるで見られない。
ロビンがフランキーのことを「海賊にとっての宝」に例えて、タマを握ってまで船に乗せたことと比べたら、W7出航時点での温度差はかなりあったと思う(この段階のロビンがフランキーに恋愛感情をまだ持ってないにしても)。


++++++++++





61. 誰がコマドリ殺したの?
(7) 蚊帳の内と外


フランキーが床を踏み破りそうな勢いでダイニングに辿りついた時、そこにいたのはアイスバーグだけだった。
「ンマー、おまえ、着替えて来なかったのか」
フランキーは部活で着ていたジャージのままだった。
髪はボサボサで半乾き、前ファスナーは全開で、紐の緩んだ腰元からは海パンが覗いている。
よく警察に捕まらなかったものだと感心するくらいの、だらしない格好もいいとこだ。


幾らフランキーがだらしないとは言え、流石にこれは尋常じゃない。
顔付きも真剣を通り越して、どこか殺気だって鳥肌モノだ。
アイスバーグには心当たりがあった。
だから黙って冷静に、義弟の反応を窺う。
アイスバーグの傍らに、バシリ、と雑誌が投げつけられた。
アイスバーグは視線だけを雑誌に落とすと、事態を察し、すぐに厳しい瞳をフランキーに向けた。


「てめェは知ってたのか」
何を、と訊く迄もない。
「ああ、知ってた。トムさんも知ってる」
アイスバーグは即答した。
フランキーもその答えは予想していたようで、特に驚いた風でもなかった。


「いつから」
「この事件の、発覚時から知ってる。ロビンの名前が表に出たのは……博士が心臓麻痺で倒れた辺りだ」
この答えにはいささか動揺したようで、フランキーの頬が強張った。
「じ、じゃあ、ロビンが帰って来た時は…既に」
「知ってた。もっと言えば、商店街の連中も知ってるヤツは知ってる。逮捕時には実名報道されてたしな。知ってて何も言わねェだけだ」
震えるフランキーの拳がぐっと握られた。


「な、何で…おれに…」
「教えてくんなかったんだ、って言いてェのか?」
フランキーからの返事はない。
が、沈黙は肯定なのでアイスバーグは話を続けた。
「ンマー…フランキー。あのな、この事件はすげェでけェ事件でな」
アイスバーグの指が週刊誌の見出しを突き、フランキーはその指先を顰めた目で見下ろす。


「当時、散々メディアに取り上げられてた。聞いてて鬱陶しいくれェにな。それをてめェが華麗にスルーしまくってただけだろが。てめェが勝手に時事問題に疎くなってたンだろ?」
「だ、だから、おれがスルーしてンの分かってンなら、教えてくれりゃァよかったじゃねェか!」
「何を?ロビンが愛人の某社長の肩棒担いで世界中の金持ちから寸借詐欺して逮捕されたってよ、ってことをか?言えるわけねェだろ?」
アイスバーグは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「馬鹿なてめェに教えてどうすんだ?『疑惑』って意味も理解しねェで、ロビンを色眼鏡で見るようになるかもしれねェだろ?」
「おれが、そんなこと」
「しなかった、って言い切れんのか?」
強い瞳で言い切られ、フランキーの言葉が詰まる。
「もしも、彼女が金集めに身体を売ってたって知ってても、おまえは再会したロビンに素直に抱き付けたか?」
「おれは…!」


声が出なかった。
分からない。
今のフランキーには仮定の話に答えられるだけの余裕がない。
「フランキーには黙っていようってのァ、トムさんが決めたんだ」
アイスバーグは大きく息を吐いた。
「おれたちはロビンの手助けをしてやれねェんだから、ここで信じててやろうって。フランキーが知ったら…受験の年だったし…七転八倒して勉強どころじゃなくなるだろうから、って」


「でも、アイスバーグもトムさんも知ってて……おれだけが知らなかった。ロビンも…言ってくれなかった。受験がってなら、大学に入ってからでも教えてくれてもいいじゃねェか。ロビンがここに来て、1年以上経つのに…」
それがどうしても納得がいかない。
ロビンに重たい過去を打ち明けてもらえていなかった事実は、彼女に頼られていなかった、男として勘定に入れられていなかった証のようで、フランキーを不安定にさせた。


「ロビンが?てめェに言えるワケねェだろ?考えてみろよ、全く事情を知らねェでいるヤツにどう言える?その雑誌読んだんだろ?そんな内容、言えるもんか」
アイスバーグが、テーブルにつかれたフランキーの手元まで雑誌を勢いよく滑らせた。
フランキーは険阻な目付きを、ぶつかってきた雑誌に向けた。
大学からトムズまでの間に、握り潰されて、破れられて、皺苦茶なそれは、そのまんまフランキーの心を体現しているかのようだった。


「まだそこに書いてあるのはダイジェストだからマシな方だ。当時は記事が出る度に面白おかしく書き立てられてて、目も当てられねェ有様だったよ」
「ここに書いてあるのは…事実なのか?」
雑誌に目を落としたまま、フランキーは訊ねた。
アイスバーグは溜息をつき、
「事実だ、ってロビンは言ってたよ」
と答えた。


「ロビンは、アイスバーグには話したのか?」
嘘だと信じ込みたい記事内容が事実だと言い切られたことと、ロビンがアイスバーグには自分の過去を語っていたことに、フランキーは同時に衝撃を受けた。
いつの間に、と思う。
その時、一体自分は、何をしていたんだろう?
それと分かる表情をする義弟に、アイスバーグは丁寧に言い含める。


「ロビンがおれに、自分の過去を進んで話したワケじゃねェ。おれから訊いたんだ。流れでそういう話をする機会が、以前あって。彼女は出来れば話したくねェみてェだった。話したのもほんのちょっと、確信部分は何も語らなかった」
アイスバーグはあの時の、夜の闇に溶けていってしまいそうなロビンを思い出した。
あの事件で一番傷ついたのはロビン本人だ。


ロビン自身にも勿論、罪も落ち度もある。
けれど、独りで生きていこうとする、守ってくれる物を何も持たない幼い少女の通り道に、罠を仕掛け、毒牙にかけた人間がいるのだ。
逃れる術のない少女が破滅の待つ世界へと放り出され、知らずに前へ進んだことまでは責められない。


ロビンは後悔している。
けれど、過去の過ちを消すことは出来ない。
彼女にはフランキーだけが唯一の心の縁。
フランキーには嫌われたくない、過去を知られたくない。
でも、知られる日はきっと来る、その日がずっと来なければいい。
いつか訪れる日を恐れ、気が狂いそうになりながら、ロビンは細い月を眺めていた。


「彼女が言うには、多少の脚色はされていたけれど本筋は事実だと」
「クロコダイルの愛人だとか…」
「ああ」
「出資者に身体を売ってたとか」
「たぶんな」


フランキーの顔がどんどんと険しく、どんどんと曇っていく。
「な?ロビンの過去をちょっと聞き齧っただけでそんなツラになるんだ。ロビンだって、お前の性格はよく分かってる。だから、言えるワケねェだろうよ」
「それでもおれは、言って欲しかった」
「言えねェって」
「でも」
「それにな」


アイスバーグがフランキーの目を見据えた。
「お前がロビンを『理想だ』なんて言うからだろうが」
フランキーは息を呑む。
「ロビンはずっと…お前の理想を壊さないようにって、無理してんだよ。そんな過去があって、お前の『理想』と『現実』の自分はかけ離れているのに。でもお前は何も知らねェ。そんなお前の、『理想』は壊したくないって」
フランキーの胸の中が奇妙な音を立てて軋んだ。
「だから、おれがお前に黙っていたのは…ロビンに、お前には内緒にしてて欲しいって頼まれた、ってのもあるんだ」







その後、アイスバーグは理路整然と、順序立てて、ロビンの巻き込まれた事件の詳細を話した。
記事にあったダイジェスト版などではなく、事細かに。
雑誌のようにロビンを悪と決め付けるのではなく、さりとて、身贔屓に擁護に走り善とするわけでもなく、完全中立の目で明らかな事実だけをフランキーの前で組み立ててみせた。
何一つ包み隠さず、クロコダイルとの関係、ロビンが男達との間で交わした行為も、淡々と語って聞かせた。
フランキーは黙って、雑誌を握り締めて聞いていた。



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