忍者ブログ
フラロビのSS置き場。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


崖っぷちの百花繚乱。


当初、フランキーはロビンに特別な感情も何もなく「仲間」または「戦友」として普通に接してたと思う。
「戦友」としては他のクルーよりもずっと重く感じているかもしれない、フランキーだけがロビンの懊悩や恐怖や必死さを目の当たりにしたし、ロビンだけがカティ・フラムだった男の苦悩を知っている。
ロビンに対する気持ちはそれ以上でもそれ以下でもなくて、いい女だとは思うけど分別で何とでもなるレベル。


++++++++++




62. 誰がコマドリ殺したの?
(8) 雄牛の慟哭 -1-


ロビンは今日一日ずっと、落ち着かない心地で過ごしていた。
まだ少し頭痛も残っていて、痛みを感じる度に心がざわめき、不安が押し寄せてくるのだった。
雑誌の記事のことも。
昨夜の夢のことも。
覚えのない、水の入ったコップのことも。
それのどれもがフランキーに繋がっていて、何か彼に対し、取り返しがつかないことをしてしまっているような予感めいた何かが、ロビンの脳裏をチラチラと飛び回っていた。


いつも、フランキーは古書店営業時間内の帰宅の場合は、トムズよりも先に古書店に立ち寄る。
その時に男性客がいれば蹴散らして、ロビンにコーラを御馳走になり、楽しく会話をした後、トムが工場にいれば手伝いをしに行ったり、トムズの夕食に駆けつけたり、飲み会に出かけたりしている。
営業時間外なら、適当な時間に鍵を使ってロビンの家にやってきて、やっぱりコーラを御馳走になって、特に用が無くても不必要にチョロチョロして「おやすみ」を言って寝に帰る。


だから、今日も普段通りならば、フランキーに顔を合わす。
どちらのタイミングかは分からないけれど、フランキーが昨日の同じように笑顔で現れてくれるのならば、ロビンのこれは杞憂だ。
安堵の息がつける。
何かを知っても、それを誤魔化すように笑ってくれるのなら、まだ救われる。


けれど。


「フランキー…」
着乱れた部活のジャージと、つっかけたスニーカー。
いつもピシッと立ち上がっている前髪も、ボサボサの濡れ髪がそのまま乾いたように、縺れて、艶を失くして。
修羅のように立ち尽くし、顔を硬く強張らせ、当然の如く笑顔はなく。
こんな風に、いかにも『事実を知って駆け付けた』のがありありと分かる姿では、己の予感が当たったことを天啓のように受け入れざるを得ない。


店内の空気が、ピリ、と張り詰めた。
ロビンは全身が総毛立つような寒気に見舞われ、心臓が恐怖に押し潰されて悲鳴を上げた。
異様な空気は客達も感じたようで、誰も彼もがあたふたと会計を済ませると、フランキーの傍らを薄氷を踏む思いで通り過ぎていく。
フランキーは客共には目もくれず、ズルズルと足を引き摺るようにしてテーブルに辿り着くと、落ちるようにして席に着いた。
ロビンは静かに戸口に向かうと、震える手で錠を下ろし、カーテンを引いた。


振り向くと、フランキーは椅子に沈みこむように、じっと座っていた。
背中は丸く、項垂れ、手はだらんと下がっている。
「ふ、フランキー、コーラ…」
「いらねェ」
声に感情を込めないように蓋をしながらも、抑えきれない情動がその下でボコボコと沸騰しているの分かる。
フランキーが怒っているのが分かる。


ロビンの足が恐怖で竦んで動かない。
フランキーは拳の中で強く握り締めた雑誌で、テーブルの上をゴツゴツと叩き、ロビンに「ここへ来い」と無言で伝えた。
ロビンは動かない足を懸命に前に出し、テーブルに近寄った。
ロビンが極近くまでやってくると、フランキーはもう一度、丸めた雑誌で隣の椅子を叩く。
ロビンが腰を下ろすとテーブルの上に、雑誌を忌々しそうに放り投げた。
手は再び、だらんと落とされる。


「これと同じヤツ、カウチの傍で見た」
原形を留めていない雑誌の無残さに、自分への怒りの大きさを見たような気がした。
「やっぱり……来てたのね」
ロビンの、膝の上に揃えて置かれた手がスカートに皺を作った。
「昨日、私…何か…」
「寝惚けて、おれとクロコダイルってヤツ、間違えてた…」
フランキーは翳った目を上げようとも、ロビンを見ようともしない。


「そっ、そう…」
ロビンは吐き出す息とともに声を出した。
何て見っとも無いことを。
フランキーとクロコダイルをどう間違えて、何をしたのか、怖くて聞けない、知りたくもない。
あの夢の内容、起きた時のあの濡れ方を鑑みれば、『理想の姉』として有るまじき言動をフランキーに対し行っただろうことは、想像に難くない。
『理想』を壊した、ただそれだけでも、フランキーのこの憤懣は納得ができる。


「ロビンはその記事読んで、クロコダイルを思い出したわけだ」
「……」
「本当のことなんだろ、全部」
フランキーがロビンを見ない。
断罪されるにしても、見てももらえないのは酷く堪えた。
フランキーが記事を読んだのならさもありなん、自分を視界に入れるのも、汚らわしいのかもしれない。
ロビンは力無く、「ええ」と小さく答えた。
ロビンの返事にフランキーの拳がぐっと握られ、ブルブルと震えた。


「何で、黙ってたんだよ」
低い、地を這うような、堪えても堪え切れない怒りに満ちた声。
怒っている、フランキーが怒っている……
ロビンの肩がびくりと竦み、奥歯がカタカタと鳴った。
「フランキーにだけは…言えなかったの…嫌われたくなく…」
喉の奥で、あまりの恐怖に言葉が縺れた。
「ごめんな…さ…」
蒼褪めた唇から、謝罪の言葉がこぼれて落ちた。


「私の過去を知っ…て、私のこと、嫌いになった…でしょう、ね…」
フランキーからの返事はない。
強張らせた顔を背けた、フランキーの光のない、色の薄い瞳はガラス玉に見えた。
笑う場面ではないのに、ロビンの唇が笑みを作ろうとする。
理性の崩壊を押し留めるために躁的防衛が働く程に、ロビンの恐怖心は限界を超えていた。
真っ黒い奈落が、ロビンの足元に口を開ける。


血の気が引いて、視界がモノクロームになっていく。
もう、駄目なのかもしれない。
フランキーに嫌われたら、私の世界は止まる。


「フランキー…許せるわけ、ない…私のこと、怒って、当然…」
片言にしか言葉が出てこない。
「ああ、怒ってる!」
フランキーのぶっきら棒な口調は激しくて、怒気を含み過ぎていて、唇から吐き出された途端に火がつくかと思った。
ロビンは思わず悲鳴を上げそうになり、必死に口元を押さえた。
ロビンが自分の声に蒼褪めてカタカタ震えている姿に、フランキーは苦々しく舌打ちをすると、目元をクシャクシャに歪め、両の手の平で顔を覆った。
ふーふーと、肩で大きく息をついて、爆発しそうな怒りをやり過ごしている。







知られたくなかった。
こうなることは、分かっていた。
私はフランキーの『理想』なんかになれないことは分かり切ったことだった。
だって汚れた女なのだから。
でも、彼は私の過去を知らないから、澄んだ瞳で私を見る。
言わなくてはならない、黙っていてもいつかは知られると分かってはいたけれど、
フランキーに嫌悪されたらもう、生きてはいけないから。
出来るだけ長く、平和で穏やかな日が続けばいいと、祈っていた。


フランキーは私に、酷い裏切りを受けたと思っているだろう。
彼の愛する少女を、私は汚して殺したのだ。
あの少女は、今の私の、どこにもいないから。
フランキーはあの時の少年を、今でも胸に抱いていてくれるのに。
こんなにも早く、終わりが来るなんて。
終わりを迎える前に、フランキーをこんなにも、愛してしまうなんて。


汚れた女の愛など、彼は必要としないだろう。
青い空も、翼のもげた飛べない鳥など、きっとすぐに忘れてしまう。
憐れな鳥は、泥に塗れた身体で足掻いて、恋しい空を虚しく叫上ぐだけ。







「とんでもねェ話だ…ロビン…!」
己の頭を掻き毟る指が、鷲爪のように曲がっている。
「おれがどんなに頭に来てるか、分かッか?」
その怒りは傍にいて、焦げ付きそうなくらいだ。
いっそ、憤怒の炎で焼き焦がされて、消えることが出来たら、と思う。


どんなにフランキーが激怒しているのか、分かっているつもりだ。
でも、その問いに肯定を返したら彼を傷つけてしまいそうだから、ロビンは小さく首を横に振った。
どう答えても、フランキーはロビンをもう見てくれないから、結果は同じなのだけれど。
やり場のない怒りが、彼の指をワナワナと震わせている。


「ロビン、おれが怒ってンのはなァ……ロビンが……過去をおれに話したら、おれがお前を嫌うと思ってることだ」
フランキーが歯の隙間から押し出すように、言った。
「お前は、おれが、こんなことくれェで、お前を嫌うような男だって、度量の小せェ男だって、思ってんだ」
「ふ…」
思わぬ発言に、ロビンの息が詰まった。



next
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
Kuu
性別:
女性
自己紹介:
しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
人型の何かです。

     
PR
Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]