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フラロビのSS置き場。
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一定の年齢の人間なら大抵知っている有名な音頭がある。


ロビンはコマドリで、コマドリとくれば『Who Killed Cock Robin.』を短絡的に連想したわけだけど、歌の中でロビンを殺したのがスパローで、作中、ロビンを苦しめる親子の名前に「スパ」がついているあたり、出典はやっぱこれだなと思ったわけで。
このSSを書くにあたって、このサブタイトルをつけたいと最初から思ってた。
スパンダは同情できる行動理念がまるでないという、いっそ清々しいくらいのゲス野郎だった。


++++++++++





66. 誰がコマドリ殺したの?
(12) それは私、とスズメが言った


今日は12月24日、クリスマス・イヴ。
ロビンが生まれて初めて、仲間と過ごすクリスマスパーティに参加する日。
昨日の夜はずっとワクワクしていて、よく眠れなかった。
仕事をしていてもソワソワして落ち着かず、何度も時計を見ては遅々として進まない針に翠眉を顰めていた。


でも、ようやく店をクローズできそうで。
客を送り出して無人の店内を見渡す。
通常の閉店時間にはまだ早いけれど、もう閉めてしまおうと決めた。
マキノの店に行く前に皆が古書店に集合する運びになっていたから、簡単に掃除もしておきたかったし、出かける前にざっとシャワーを浴びたかった。


こんなに浮き立つ気分でクリスマスを迎えたことなんてあっただろうか?
叔父の家にいた頃は、クリスマスなんてかえって惨めになるだけで大嫌いなイベントだった。
留学先でも、勉強一辺倒でカレンダーなんて意味をなさなかったし、クロコダイルにディナーに誘われてもおざなりなものだった。
去年は、それまでで一番楽しいクリスマスだったけれど、心のどこかで己の過去が重荷で、今が幸せなだけに、ふとした瞬間、未来への不安がひたひたと押し寄せて来た。


それが、今年はどうだろう?
心に鬱屈したものが全くないだなんて。
好きなひとと過ごせるなんて。
今日は、可愛いチョッパーの誕生日でもあって、プレゼントを渡した。
「医学書よ」
と言って、人体の絵本を数冊渡したら、目をキラキラさせて喜んでくれた。


フランキーにもクリスマスプレゼントを用意してある。
こうして、好きなひとに贈り物をするクリスマスというのも初めてで、ロビンはとにかく浮かれていた。
自然とクリスマスソングを口ずさんでしまう。
「さあて。さくさくと片付けてしまいましょう」







腕まくりをしながら、最後の客のカップに向かう。
すると、背後で戸口がガタリと開いた音がした。
まだ皆が来るにはかなり早い。
カーテンの下から覗く、見慣れない足格好に客だと判断する。


「あの、今日はもう閉店なんです」
ロビンの声を無視して男がひとり、入って来た。
戸口に引かれたカーテンをバサリ、とカッコよく捲りたかった意図は見受けられたが、結果、器用に身体に巻きつかせ、暴れてもがいて引っ繰り返るようにして男は無様に入店した。
立ち上がり、咳払いをして体裁を整えると
「久し振りだなァ、ニコ・ロビン」
男は下卑た笑いを浮かべた。


「おれの送ったプレゼントはお気に召したか?」
男は件の雑誌を、ロビンに向けてバサバサと振って見せる。
「やっぱり、雑誌を送りつけて来たのはあなただったのね、スパンダム…」
ロビンは冷めた瞳をスパンダムに向けた。
スパンダムは「さん、をつけろ!」とツッコミを入れてから、
「ほう?気がついてたのか?」
目を細めた。


「やたらセンセーショナルに書かれてはいたけれど、内容的に目新しいことは殆どなかった。事件の真相と銘打った過去記事の焼き直しと、資金集めに纏わる私を下半身から見た記事の掘り起こし」
ロビンはカーテンを開けると、戸口の引き戸を全開にした。
途端、吹き込む冷たい冬の風と、通りに流れる賑やかなクリスマスソング。
「そんな中に唯一あった、これまでに表に出てなかった話が、留置場での取り調べのやり取り。あなたとのね」


スパンダムという男は、ロビンを逮捕し、執拗に取り調べた刑事だ。
見切り発車でロビンを逮捕した上に、取り調べ中、彼女に乱暴を働き問題になったが、上層部にいる父親の力でもって揉み消したこともあった。
結局何の証拠も上げることが出来ず、ロビンを釈放せざるを得なくなった、七光りだけが取り柄の無能な男。


無能で、出世欲と自己評価がやたら高い男だが、権力を持ち合わせているために非常に性質が悪い。
ロビン釈放後、悔し紛れにあることないこと吹聴し、マスコミを煽ったのもこの男。
度重なる家宅捜索、事情聴取等々、ロビンの職場にも嫌がらせにも似た圧力をかけ、ロビンが働き続けることが難しい環境にしたのも。
そうして、ロビンの考古学者生命を断ち切った。


ロビンの、出ていくようにの意思表示を無視して、スパンダムは店内の椅子に腰かけ、汚ない靴をテーブルに乱雑に載せた。
ガシャリ、と天板の上のカップが跳ね、ロビンは眉間に険しい皺を寄せる。
「何でこんなところにいるの?クリスマス休暇をとって、わざわざ、何しに来たの?」
「仕事に決まってるだろう?おれはまだ、お前をクロだと思っているからなァ。牽制に来たのさ」
暇なのね、ロビンは溜息をついた。


「その記事、あなたが書かせたのでしょう?」
ロビンが嫌悪を隠さない声で言うと、スパンダムはにんまりと笑って
「そうさ」
と答えた。
「この事件が風化しつつあったからなあ…ここいらでちょっと、世の中に思い出してもらいたくてね、悪魔の存在を」
スパンダムは雑誌でロビンを指した。


「どうだ…せっかく新生活を始めたこの町で、居心地が悪くなったんじゃないのか?」
ロビンは薄く笑って肩を竦めてみせた。
「私の過去を絶対に知られたくない人がいて、必死に隠そうとしていたのに、この雑誌のせいでバレてしまったわ」
「そうだろうな」
スパンダムはほくそ笑む。


「お陰様で、全部打ち明けるいいきっかけになったわ。雨降って地固まる、ってヤツね。今では信頼関係が増して、とても嬉しいわ」
あなたのお陰ね。
ロビンは綺麗ににっこりと微笑んでみせた。
思惑通りにならなかったことを知り、スパンダムはわなわなと唇を震わせた。
「ふん、まあいい」
無能男は負け惜しむ。


そして脈絡もなくいきり立つ。
「真犯人にみすみす釈放を許すなんて……このおれの輝かしい経歴に、お前は傷をつけたんだ!分かるか?」
スパンダムが、大事な椅子を二本の脚で揺らしぞんざいに扱うのを、ロビンは苦々しく見つめた。
脚を折るか、引っ繰り返るかしそうで怖い。
スパンダムが怪我をするのは勝手だが、大事な椅子に傷がつくのは困る。


「残念ながら、私は事件に無関係よ。何度も言ったでしょう?そして証拠も出なかった」
「あの氷の大将があっさり起訴を取り下げてなけりゃァ、今頃は裁判所送りに出来たんだ」
スパンダムが憎々しげに舌を打った。
じっとりと、湿った目をロビンに向ける。
「どうやってあの大将をたらしこんだんだよ……どうせ、その身体で籠絡したに違いねえが。油断も隙もあったもんじゃねえ」
卑しい瞳に肉欲の光が小さく灯った。


ロビンは、ふ、と鼻で笑った。
「こんなにしつこいのは、拘留中、私があなたの誘いに乗らず、突っぱねて、抱かせなかったから?」
「何だ…ぐわあ!」
ロビンに図星を指されたスパンダムは、無礼を口にするロビンに飛びかかろうとしたものの、バランスを崩し、椅子ごと倒れた。
ロビンの大事な椅子の脚は、けたたましい音を立てて圧し折れた。


「何だと?愚弄するのか、この犯罪人が!」
改めて言い直す。
スパンダムは掴んだ雑誌でテーブルを払い、その上にあったカップを薙ぎ倒した。
コーヒーカップとソーサーは床に落ち、木端微塵となった。
クローバーの遺品の、大切な器。


ロビンはキッとした目をスパンダムに向けた。
「ずいぶん好き勝手してくれるのね!」
「黙れ!」
スパンダムはロビンの元に駆け寄ると、雑誌で彼女の頬を叩いた。
ロビンの頬に焼けるような痛みが走る。
「ッつ…」
ロビンは痛む頬に手の平を当て、反射的に目を瞑った。
続けて、重たい何かが落ちたような大きな音。


突然の音に驚いたものの、乱暴には屈しない意志を見せようとスパンダムに向き合おうとした時、当の本人は何故か、ロビンの足元、地べたに這い蹲っていた。
スパンダムの脳天には薄汚れたスポーツバッグがめり込んでいる。
「な、何…」
いつの間にか、戸惑うロビンの傍らに、背の高い水色の頭。


「あーあ…、とうとう寿命が来たか。長いこと使ったモンなァ、これ」
フランキーの手の中には、千切れたスポーツバッグの取っ手。
「フランキー…」
「大丈夫か?」
心底ホッとした顔を見せるロビンに声をかけて、その綺麗な顔に赤い傷がつけられているのに気がついた。
白い肌に滲む血の色、店内には折れた椅子と、砕けたカップ。


空色の瞳が黒味を増したように濃くなっていく。
フランキーの身体からは、怒りのオーラが容赦なく噴き出した。



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