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フラロビのSS置き場。
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345、ラストスパート。


ゾロって良牙と被るんだよね、あの極度の方向音痴っぷりがいい勝負だと思う。
チョパ+ではサニー号から出られなくて、船が悪いってフランキーに文句言ってたし。
泉に落ちたらゾロは絶対に黒豚になる、刀を咥えて走る豚はまるで忍豚のようだが、Pちゃん状態になる度にサンジの前で生命の危険を覚えるゾロと、黒豚ゾロを見かける度に殺人シェフの様相を見せるサンジとの攻防が常態化した日常は、見てて微笑ましいと思う。


++++++++++






88. 三月の風、四月の雨、五月の花を咲かすため。(1)


「てなワケでな。お母さんの方が先にお父さんを好きになった。お母さんは昔っから、お父さんにぞっこんだったのよ」





水色のリーゼントを揺らし揺らし、愛用の鋸にヤスリをかけながら、男は昔話を話して聞かせる。
上天気の休日、こんな日は工具の手入れに最適だと、庭先に陣取る男の下半身は海パン一丁。
男の話相手は、傍らの下草に座り込み、厚い本を抱える女の子。
年の頃は小学校高学年くらい、利発そうで生意気そうな、我が子ながら綺麗な顔は年々、自分の妻によく似て来たと実感する。
男と同じ水色の真っ直ぐな髪は、肩の辺りで切り揃えられている。


「お母さんはいつもお父さんに捨てられるンじゃねェかと心配しててなァ…惚れた弱みってヤツだな」
と、男がウハハハと笑うと、傍らの娘は冷静に
「嘘ばっかり」
と言い放った。
思春期に突入した辺りの自分の娘に何を話しているのかといえば、自分と恋女房との馴れ初め話。


「嘘じゃねェよ。紛れもねェ事実ってヤツだ」
男が目力をこめた空色の瞳で言い返すと、同じ空色の瞳が即座に
「嘘」
と返した。


「じゃあ、どこら辺が嘘だっつー根拠なのよ?」
と、男が訊ねると
「そんなのいっぱいあるわよ」
少女は高い鼻をツンと聳やかして、膝の上で本を開いた。
「海パンだし、変態だし、ゴリラみたいだし、オッサンだし」
「おい、変態は理由になんねェぞ?褒め言葉じゃねェか。おれの肉体美が分からねェのは、お前がまだガキだからだ。それにオッサン言うな、おれはまだ32だ」


女の子も分かっている、クラスの友達を見回してもこんなに若い年齢の父親はそうはいない。
母親でならたまに見かける年齢かもしれないが、友達の父親の多くは40代半ば以降だ。
だけど、友達から「パパ若くていいね」と言われても「どこが?」と思ってしまう。
「ガサツだし、口悪いし、喧嘩ッ早いし」
「上品な大工なんざ気色悪ィだろうがよ?男ってのァ、これくれェが調度いいのよ」
「だってサンジお兄ちゃんみたいなオシャレな男の人だっているじゃない?」
まだ幼さの残る丸い頬が、ぷくう、と膨れた。


「アイツは女に対してイイ顔するからな」
出会った日から何一つ変わらない友人を思い描いて苦笑する。
「地はおれと変わンねェよ、結構かなり品行下劣だぜ。おれのアロハだって拘りで……つか、同じ年なのに何でアイツが『お兄ちゃん』で、おれが『オッサン』なんだよ」
「見た目」


大体、どうしていつも海パンなのかが、我が父親ながら分からない。
さすがに外出する時は下も穿くものの、帰宅と同時にこの姿になる。
外で穿けるなら家でも穿いていればいい、と思うのに母親も特に疑問も持たないのか、普通に接している。
同じ商店街でフランス料理店を経営しているサンジお兄ちゃんみたいに常にビシッとスーツでキメていて、とは言わない。
家の中で寛ぐならアロハに海パンじゃなくて、ポロシャツにチノパンとかで…、と想像した父親の姿に違和感を覚えた段階で、自分も相当毒されていると唇を噛む。


「分かってねェなァ。人間見た目じゃねェっつの」
娘の気も知らないで、男はヤスリを口に咥えて、指先で鋸の歯の丸みや欠けを点検する。
「あんな男に惚れたら一生浮気の心配して終わるわ。嘘だっつー根拠にもなりゃしねェ」
女の子は頬の膨らみに加えて、眉間にも皺を寄せて納得のいってなさをアピールした。
「おうおう、物凄ェブサイクになってるぜ?」
「うるさいわねッ」
おー、こえーこえー、と男はちっとも怖がってない顔で嘯いた。


「私から見たら充分根拠なの!それにお父さんが32歳で小5の子持ちっていうのは『出来婚』だったからでしょ?お母さん、本当はお父さんとは付き合うだけにして、結婚は考えてなかったかもしれないじゃない」
痛いところを突かれる。
小5の少女がどこまで『出来婚』を理解しているものかは知らないが、言っていることは間違っていない。
男はちょっと記憶を巻き戻して当時を思い返す。





娘が生まれたのは、男が大学4年の夏で。
妊娠したかもしれないと、彼女に心配そうに打ち明けられた時は、付き合い出してまだ半年も経たない頃だった。
当時、色々な想いを抱きながらも、最愛の女性に負担が掛からないようにと、「今日は大丈夫だから」と言われなければ必ず避妊を心がけていた男が一度だけ、破壊衝動に駆られて犯ってしまったことがあった。


その時の種蒔きで見事、根付いて実ったのが、この目の前の娘だ。
確かに予定外で授かった娘だけれど、心底愛している。
自分からは気風の良さと髪と瞳の色を受け継いで、母親からは美しい容姿と聡明さを受け継いだ。
紛う方無き、ふたりの子ども。
出産の日、母子ともに無事だと分かった時には、とんでもなく泣いてしまった男だった。


結婚してから今日までいつも幸せそうに笑っている愛妻が、妊娠さえなければ付き合うだけで終わりにしようと思っていた、とか、自分との結婚なんて夢にも考えていなかった、とか、どう未来を描いていたかなんて分からない。
ただ、あの時はとにかく責任を取ろうと、彼女が母子手帳をもらいに行く前に籍を入れた。
確かに経済的に何も独り立ち出来ていない身で学生結婚するのはどうかと分かってはいた。
義兄にも散々、耳の痛いことを言われた。


けれど、正直言ってしまえばこの既成事実のおかげで、気が狂う程に愛して止まない女をこれで一生自分に縛り付ける大義名分が出来たと、暗く悦んだのは事実。
昔から、自分の願いのために彼女の悲運を望んでしまう、ロクでも無さは変わらない。
おそらく、今でも。





「……イヤ、そんなこたァねェ……」
自信家の男にしては、些か力無く首を振る。
そんな父親の様子に娘は、ははあん、と意地悪く目を細めた。
「捨てられるんじゃないかっていつも心配してたのは、お父さんの方なんじゃないの?大体、今でも信じられないもん。お母さんがお父さんよりも6つも年上だなんて」
逆ならすっごく納得いくのに。
父親の内心を何も知らない娘は、非常に素直に思いつくままを口にする。


女の子の母親であり、男の妻である女性は現在38歳。
本人は今でも夫との6歳の年齢差を気にしているようだが、娘の言う通り、とても若々しく、20代にしか見えない。
間もなく四十路とは思えない、そして二人の子持ちとは思えない美貌とプロポーションを保っている。
メリハリのあるボディラインは今も健在で、結婚も11年目だというのに今だ男は悩殺されている。
彼女を愛する気持ちは今もあの時と何も変わらない、自分達の関係は何一つ動じない。
ただ、彼女の黒髪が腰まで長く伸びて、重ねた年月を物語るだけだ。


「例えば、もしもあの時、私がお母さんのお腹に入らなかったら、今どうなっていたかって考えたことある?」
正直、もう考えたくなかった。
彼女が自分が離れていく面白くない世界しか想像が出来なさそうで。
だからそれは彼方遠くに押しやったものの、どうしてか第一子妊娠の経緯を回想する結果となった。
何でか泣きそうだったので、男は額に掛けていたサングラスを下ろした。







**********


残暑厳しくも、段々と短くなっていく日の長さに秋の訪れを感じる9月の終わり。
フランキーが大学帰りに古書店に顔を出すと、店内のテーブルは見知った顔で埋められていた。
「おう、お帰り、フランキー」
ウソップの声掛けに、ナミ、サンジが振り返る。
何となく、その顔ぶれに嫌な予感を覚えたフランキーはくるりと背を向けて出ていこうとした。


「何で帰ろうとするのよ、フランキー!」
「おめーがコイツラとココにいるからだよッ!」
「サンジくん!」
「はあい、ナミさん!」


ナミの僕に成り下がったサンジに踵落としを喰らい、あえなくナミに拳骨をもらい、フランキーはテーブルに引き摺られていった。
「さあ、フランキーも席に着いて」
無理矢理、椅子に座らされ手元にプリントが配られる。
「2ヶ月後に控えるウチの大学での学祭にアンタ達の労働力を当て込んでて…」
「絶対にソレだと思ったンだ…だからお前の頼み事は持ち出しになるからヤなんだって」
フランキーの額がプリントの上にヘタリと落ちた。


「ふふ。諦めなさい、フランキー」
クスクスと笑いながら、ロビンがコーラを運んできた。
「お帰りなさい」の言葉と一緒にテーブルに置かれる。
「じゃあ、皆さんごゆっくり」


ロビンはそう言って店の奥に引っ込むと自分専用スペースのソファに腰かけ、読みかけの本から栞を引き抜いた。
文字を追いかける瞳も、頁を捲る指先も、肩を滑る黒髪を掻き上げる仕草も、相変わらず綺麗で。
濡れたように透ける窓からの光も、オケージョナルテーブルに生けられた秋草も、彼女を引き立てて。
そんなロビンを、フランキーは天板に頬をくっつけたまま、憧憬滲む眼差しで眺めていた。


ロビンに見惚れたまま動かないフランキーに、サンジが言った。
「最近どうなんだよ?何か進展あったか?」
フランキーは仲間に脳天を向けたまま、大きく肩で溜息をついた。
「何もねェよ」
と低く唸るように言いながら、のっそりと身体を起こしプリントに手を伸ばした。


「だよなァ…お前のツラ、前進してるツラじゃねェもんなァ」
ウソップの言葉には
「うるせーな」
と一言返し、面白くなさそうにプリントに目を通す。
仲間三人は片想いに足踏みしたままの友人を前に、互いに目配せした。


「でも、ロビンは凄く…綺麗になったのよねぇ…最近」
ナミがストローを咥えながら言う。
「ロビンが綺麗なのなんか、昔っからじゃねェか」
フランキーは頬を引き攣らせ、コーラをがぶりと飲んだ。
「それはそうだけど…何て言うか、殊に艶めいてるって言うか…」
「確かに笑顔が晴々してる気はするなー」
腕を組んだウソップが、うんうん、と頷いた。


「フランキーには申し訳ないかも、だけど。ロビン、彼氏が出来た……とか…」
「何でそう思うんだよ」
ナミ達は揃ってフランキーの様子を窺う。
前髪が伸び始め、ややリーゼントになりかけのチンピラは赤い顔をしていて、友人達には痛いところを突かれて憤慨しているように見えた。


「…うーん…機嫌が凄くいいのよねー…。仕草も何となく…」
「ああ、それはおれも思う。腰回りが充実している」
「てめェッ!エロい目でロビンを見ンじゃねェよ!」
「いいじゃん。お前の女でもないンだし」


「ああ、もお、ヤメヤメ!こんな話!」
フランキーが丸めたプリントでバシバシと天板を叩いた。
「話があンならさっさと進めろ、ナミ!やりたかねェが、おめェの手伝いしてやっからよ」
不機嫌を絵に描いたようなフランキーに三人は見交わして、さくさくと本題に戻った。


ここのところ、フランキーがやたら不機嫌なのはおそらく、失恋が濃厚なのを自分でも感じているからなのだろうと、友人達は密かに思う。
それくらい、傍で見ていてもロビンは美しさに艶と輝きを増し、何かいいことがあったに違いないと誰しもに思わせる程、上機嫌だった。
仲間たちはこれ以上フランキーを刺激しないよう、話題を変える。


「…あ、そうそう。聞いた?ゾロが今どこにいるか」
「何だよ。ここ数年の迷子、見つかったのか?」
「道場へと家を出て以来、行方不明になって結構なるな」
「酋長が中国秘境ツアーに行った時にね、呪泉郷でマリモ頭を見たんだって」
「呪泉郷とはまた…嫌な予感しかしねェ」
「アイツ…黒豚になってそうだな。キャラ的に。つか、酋長、凄ェとこに旅行に行ったな」
「よし。店で黒豚を捌く時は手を合わせてからにするか」
「おれ…怖くて豚食えないかも…」


何だかフランキーが気の毒で、帰るまで誰ももう、ロビンを話題に出す者はいなかった。




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