忍者ブログ
フラロビのSS置き場。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


白詰草の花言葉、『復讐』『約束』、何か意味深


このSSのフランキーも、最初は34歳バツイチ子持ちの設定だった。
正直某SSのリスペクト妄想でカタチにする気はまるでなかったから、設定は盛大にパクられていた。
そこに若ンキーとおねえさんロビンの妄想が注ぎ込まれ、現在に至る。


++++++++++





しっとりとした白漆喰の壁、磨かれた飴色の床、窓には濡れたような光を通すレトロガラス。
アンティークと呼べば聞こえはいいが、希少性よりも古さの印象がだいぶ際立つ調度品。
所狭しと立ち並ぶ本棚に詰まった古書から発せられる、独特の紙の匂い。
これまた年代物の建具に仕切られた入口には、『白詰草古書店』の文字が書かれた看板と、
薄青紫に煙る姫紫陽花。







三月の風、
四月の雨、

五月の花を咲かすため。








1. 白詰草古書店


閑古鳥が鳴き寂れていく商店街が多い昨今、ここ一繋町商店街はそんな辛気臭い話題には無縁、いつでも無駄な活気に溢れていることで有名な商店街だ。
『白詰草古書店』は、この賑やかしい商店街に店を構えていた。
店主が代わり、リニューアルオープンして彼これ2年。


商店街に面しているのにも関わらず、端っこにあるため店内は喧騒とは比較的無縁だ。
静謐な空間に、アナログなレコードプレーヤーから流れるクラシック音楽。
店の入口から本棚のパーゴラを抜けるとその中程に、大きな一枚板のテーブルと6脚の椅子が設えられていて、そこでは客がゆったりと腰を据えて店内の本を読めるようになっている。


今もそこにはふたりの男の客が腰をかけていたが、彼らは心ここにあらずといった体で、視線の注がれない頁をパラパラと徒に繰っていた。
しばらくしてコツコツと軽い靴音が店の奥から聞こえ、長身の黒髪の女がコーヒーの香りを纏って現れた途端、彼らはキリリと顔を引き締め、ずっと本に熱中していた体裁を整える。
「コーヒーをお持ちしました」
どうぞ。
優雅な白い指が一人の客の前にコーヒーを置いた。
カップ&ソーサーは白地に青で模様の描かれた、趣味のいい西洋陶磁のヴィンテージ。


「ああ、ありがとう」
客は精一杯恰好をつけて絞り出した渋い声で礼を言うと、一口飲んで
「君のコーヒーはいつも美味しいね、ロビンさん」
と台詞に常連っぽさを醸し出してみた。
斜め向かいに座る、もう一人の客に対する牽制が多分に含まれていることは言うまでもない。
「ありがとうございます」
木目のトレーを抱えた黒髪の美女、ロビンが自分にくれた笑みに、客の鼻の下がだらしなく伸びる。


「ああ、すみません。ロビンさん」
もう一人の客が手を上げ、美女の注意を自分に向ける。
「もう一杯。お代わりをもらえるかな」
「そんなにお代わりして大丈夫?」
ロビンは少し首を傾げ、くすりと笑う。
彼女の動きに合わせてサラサラと肩を滑る黒髪。
意図せずに生みだされる女性美に、思わず客の口がポカンと開く。
「もう4杯目でしょう?」
男が勝ち誇った目を斜向かいの客に向けた。
杯を重ねていることをアピールしてみせ、先程の遺恨を晴らしたつもりだろう。
「いや、君のコーヒーは美味しいから。幾らでも飲めるよ」
「ありがとうございます。今、お持ちしますね」


にこり、と微笑みを残し、ロビンは踵を返した。
コツコツと軽い靴音が去っていく。
黒を基調としたタイトなシルエット。
高い位置の腰から見事に描き出される女性らしい曲線と、すらりと伸びた脚線美。
あまりの艶めかしい後ろ姿に、男たちの口から同時に感嘆が漏れた。







ここは店内の本を自由に読みながら、美味しいコーヒーが本物の器で頂けると評判の古書店。
しかもコーヒーを入れてくれるのがとびきり美人の店主、しかも独身とくれば来店の9割以上が男性客というのも致し方ない話だろう。
先の客だけでなく、彼女の店を訪れる男性客の殆どの目当ては掘り出し物の古書でもなく、香り高いコーヒーでもなく、見目麗しい美貌の店主だ。
今時こんな個人店の古臭い本を買いに来る客などいないだろうと、半ば図書館のように解放して、カフェが本業のようになってしまっている。


そんな古書店の店主だが、彼女自身、この店の数多の本には深い思い入れがあり、そんな本達を手放すことは実は本意ではなかったりするので、特に古書が売れなくても構わないのだった。
彼女の生活の糧は別にあるし、こうやって男性客たちが競い合って飲んでくれるコーヒー代の売り上げも結構なかなか莫迦にならない。
美人店主の気を少しでも惹こうと日参する男たちを適当に笑顔であしらい、空いている時間は自分も読書をして過ごす。
ここでの暮らしは今の彼女にとって、何物にも代え難い。







ドリッパーにお湯を少しずつ垂らし、豆を蒸らす。
ロビンは豆がふくふくと膨らむのをゆったりと待ちながら、レコードの柔らかな音圧を楽しみ、曲を口ずさむ。
カウンターに飾られた紫陽花に目が留まった。


読書と並んで花が大好きな店主は、小さいながらも手入れの行き届いた庭の草花を店のあちこちに生けている。
代わり映えのしない景色の中、四季折々の小さな植物たちが暦の移り変わりを教えてくれる。
今の季節、庭には紫陽花、薄い紫から淡い水色へのグラデーション。
ロビンは目を細め、しっとりとした紫陽花の水色に指を愛しげに滑らせた。


入口の引き戸が開く音にハッとする。
扉の開け方一つで、ロビンにはこの新しい客が誰だか分かる。
本人としては「出来るだけ静かに」とかなり気を使っているつもりなのだろうが、結果としていささか乱暴な扉の開け閉めの音に続く、大きくて重たそうな靴音。
耳に届く、たったそれだけの気配で自分の表情がふんわりと柔らかくなったことに、彼女は気付いているのか、いないのか。
とくん、と大きく、彼女の胸の中が揺れた。


騒音の主は脇目も振らず、勝手知ったる店中のテーブルにやってくると、その天板に薄汚れたスポーツバッグを、どさり、と無遠慮に置いた。
テーブル上のカップやスプーンが飛び上がり、カチャカチャと音を立てる。
先客達は目付きの悪い若い客に慄き、自然と身を縮こめた。
古い家屋の低い天井に頭を擦りそうな上背と、立ち上がった水色の髪。
肌蹴た派手なアロハから覗く、筋骨隆々な躯体。


「うっわ…カティ・フラム…」
客のどちらかがボソリと呟いた。
「あァん?」
自分の名前が呪いの言葉のように吐き出された方向に、その悪い目付きが向けられた。
冷や汗を流しながら本から顔を上げぬ戦意のない男たちにフンと鼻を鳴らし、新参者は椅子の脚を木端微塵にしそうな勢いで、どっか、と腰かけた。


「もっと優しく座ってくれないかしら?脚が折れてしまうわ」
「…壊れたらおれが責任持って直す」
「後、荷物は下に置くように、っていつも言っているでしょう?フランキー」
「……」
店主に静かな口調で窘められて、ガサツな青年・フランキーは唇を尖らせながらも素直に言うことを聞く。


「ごめんなさいね」
ロビンはお代わりのコーヒーを届けつつ、フランキーが迷惑をかけた客に頭を下げた。
頭を下げた拍子に客の目の高さでロビンの豊かな胸が撓む。
「い、いぃえぇ。いいんですよ…」
さっきまでチンピラ登場に慄いていた客の目の色が瞬時に変わったのをフランキーは見逃さない。
見るからに好色な目線がロビンの胸の谷間に釘付けになったのを横目に見て、フランキーはイライラと舌打ちをした。
武装色豊かな舌打ちは効果覿面で、客はびくりと身体を震わすと、大人しく目を小刻みに揺れる文字に落とした。







フランキーことカティ・フラムは、その名前を知らない者はこの町界隈にはいない、と断言しても過言ではないくらいの有名人だ。
確かに幼い頃から悪童として通ってはいるが、これまで特別何か悪さをするわけでもしたわけでもないし、むしろ明るくてお節介で涙脆い好青年だったりして、彼を「アニキ」と慕う連中も多い。
警察の御厄介になったのも片手で数えられるくらいで、それも全部、海パン姿で商店街に買い物に出て、おまわりさんに
「ちょっとおいで」
と交番に連れて行かれたハートウォーミンなお話だ。
大学に入ってからは一度もない。


養父のトムを物凄く尊敬し、彼のような大工になりたいとトムの仕事場に小さい頃から出入りして、空いている時間は勝手に手伝っては勝手に修行に明け暮れてる、意外にも健全過ぎる毎日。
生来の才能も相まって、フランキーが既に一端の技術を持っていることは、師であるトムも、彼とは喧嘩ばかりの義兄アイスバーグも認めるところだ。
だのに何故か悪名高い方での有名人。
ひとえに目付きと口の悪さと、チンピラのような風体と、ケンカっ早さとそのケンカの異常な強さが原因だと思われる。


そんな感じで、灰汁のない一般人に恐れられているこのフランキーの住まいが、この美人店主の構える古書店隣の工務店であり、隣人のためここに頻繁に出入りしていることは、常連客には周知の事実だ。
非常にガラの悪い災害にこうやって遭遇する確率は割合高い。
それでもこうして男たちが古書店に足を運んでしまうのは、ロビンの罪作りな妖麗さ故に他ならない。







フランキーはテーブルに突っ伏すと、首を真横に捻じ曲げ、応対するロビンを舐めるように見ている客の後頭部にガンを飛ばした。
「フランキー、何か飲む?」
ロビンが客越しに訊ねてくる。
綿飴のように柔らかくて甘やかで、触れたら直ぐに溶けてしまいそうな微笑み付き。


ロビンの笑顔はフランキーの大好物だが、それが決して自分だけのものではなく、十把一絡げの男客にも振り撒かれていることが、彼は甚く気に入らない。
ロビンの対客人用笑顔はあくまでビジネスライクなものであることがフランキーには分からない。
ただどことなく、彼女の自分への笑顔が他に対するのとは違うというニュアンスだけは敏感に嗅ぎ取っていて、その理由を「おれは弟ポジだから」とか「子ども扱いされている」と自己完結させていた。


フランキー20歳。
ロビン26歳。
片や大学3年生。
片や院卒社会人。


ふたりの間には、絶対に越えられない6歳の壁とキャリアの差があった。



next
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
Kuu
性別:
女性
自己紹介:
しばらくフラロビ妄想で生きていけそうです。
人型の何かです。

     
PR
Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]