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フラロビのSS置き場。
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スターダストレビューの曲がまんまモチーフ。



相手を意識し始めるのはロビンの方が先で、彼女の隠しても色に出にけりな部分がちらほら見え出した辺りでフランキーも相手を意識し始める、ってのが定石かと。
若者揃いの麦わらの一味の中で、連中に先駆けてはっちゃけるアニキでも、ジェネレーションギャップを感じることもあるだろうし、そうなると一番年近なロビンを割りと身近に感じると思う。
かえって近過ぎて見えないんだろうなあ、最初は。


++++++++++





13. 横顔


「結局、会えなかったなァ…」


フランキーは予想以上にガッカリしている自分に驚いた。
クローバーを実の祖父のように慕っていた彼女だ、彼の葬儀に来ないということはないだろう。
今日来ないのなら、明日、必ずきっと来る。
「明日の告別式……12時から」
記憶した掲示板の情報を反芻する。
よし。明日はガッコを昼前にフケよう。
「明日も行くっつってもな、香典代もねェし。まァ、斎場に入らなくても出入り口で張ってりゃあ、大丈夫だろ…」


アイスバーグから何の音沙汰もなく、退屈な時間がダラダラと過ぎて行く。
気の長い性質でないフランキーの限界点が近づいてきた。
場所が場所だけに、これでもかなり譲歩している方なのだ。
「バカバーグのヤツ…後で絶対ェブン殴る…」
ブツブツ言いながら、何の気なしに見下ろしたタクシー乗り場に並ぶ中に、フランキーは好みの後ろ姿を見つけた。
「お?ありゃあ、かなりのいい女と見た」
待ち人の彼女を思いながらも、タイプの女性に目移りしてしまうのも、若さ故か男の性か。


如何せん、上半身は傘に隠れているので美人かどうかの判断は出来ないが、腰から尻にかけての流れるようなメリハリのある曲線と、腰の高さを強調するすっと伸びた脚が何とも艶めかしい。
身に纏っているのは他の弔問客の例に漏れず、黒の喪服なのだけれど、ただそれだけの後ろ姿にあのエロティックさを醸し出すとは、なかなかの強者ではないだろうか?
地味な黒のパンプスときゅっとしまった足首のアンバランスさにすらそそられる。


「うわー、顔が見てェ。あのスタイルで顔がイマイチだったら残念極まりねェな」
などと失礼なことを口にしながら、顔が垣間見えるチャンスを待つ。
タクシーに乗り込む一瞬が決め手だ。
後ろ姿美人にタクシーが回って来るのをじっと待つ。
「次…よし、今だ。傘閉じろ、今すぐ閉じろ。早目に閉じろ」


フランキーが見守る先で、女性は傘を閉じた。
肩の長さで切り揃えられた、ストレートの黒髪が艶やかに光る。
タクシーに乗り込むために腰を屈めた女の白い横顔が見えた刹那、
フランキーは身を翻した。
走りながら、邪魔な引出物を放り投げる。
中身はどうせ海苔かお茶だ、乱暴にしても問題はあるまい。
階段を飛び降りるようにして2歩で駆け下り、タクシー乗り場のある出口へ急ぐ。
雨は建物の中から見るよりも強く、傘を持たないフランキーのシャツをあっという間に濡らした。
女の乗ったタクシーは既に乗り場にはなく、車道手前でウィンカーを出していた。


「ちょっと待て!そのタクシー!」
フランキーは全力で駆け出す。
駐車場を真っ直ぐに突っ切って、ぶつかりそうになった他の車にクラクションを鳴らされる。
謝るジェスチャーをしながら、振り仰ぐと手前の信号が赤になったのが見えた。
車列が途切れ、タクシーが車道に滑り出す。


「ロビン!」
フランキーは彼の人の名を叫ぶ。
「ロビーン!」
フランキーのあらん限りの大声も、無情の雨音が掻き消した。







その夜、夢を見た。
タクシー乗り場で見かけた、横顔の夢。
俯いた白い横顔。
チラッとしか見えなかったけれど、あれはロビンだった。
多分、通夜が終わってから到着したロビンと入れ違いになったのだろう。
アイスバーグを待っている間にロビンは来て、故人と最期の別れをし、帰った。
どうせアイスバーグを待つのなら、遺影の見えるところで待てば良かったんだ、と己の考えの至らなさに酷く後悔した。
そうすれば、見れたのが横顔だけ、なんて事態にはならなかったはずなのに。


夢の中の横顔は、いつの間にかあの夏のロビンのものに変わっていた。
フランキーもまた、10歳の少年の姿に戻っていた。
ロビンは旅行バッグの中に私物を詰めていた。
帰ってしまう前の日の夕方、荷物をまとめるロビンの横顔を、フランキー少年は黙って見つめていた。
夕日が橙色に染めた和室の隅っこに蹲り、畳の上から徐々になくなっていくロビンの荷物に、焦りのようなものを感じていた。


ロビンの養父家庭が彼女に良くしていれば、彼女は遠くに旅立つこともなかったのに。
そうすれば、自分はこんな思いをしなくてすんだのに。
そう思うと、ロビンを苛めた叔母や従妹とやらをブン殴りに行きたくなった。
けれど、もしも彼女が養父の元で幸せであったのなら、彼女がクローバーの元にやってくることもなかった。


そうしたら、おれとロビンは出会わなかった。
それは嫌だ。
ロビンは不幸せで良かったんだ……


そう結論を出して、自己嫌悪に陥った。
利己的にロビンの不幸を願った自分、それに嫌悪を覚えつつもそう思わないでいられない自分。
おれはサイテイだ。
フランキーは膝に顔を埋めた。
気付くと、ロビンも自分の隣に、同じように膝を抱えて座っていた。
ただ黙ったまま、ザラザラした砂壁に並んで座っていた。
フランキーは、ロビンをチラリと盗み見た。
ロビンの横顔は、困ったように、薄く微笑んでいるように見えた。


今、思う。
その横顔は本当に微笑んでいたのか、と。
泣いていたのではなかったのか、と。
ロビンは辛くても笑顔を作るひとだったから、そう見えただけなのではないのか、と。
フランキーは腕を伸ばす。


今なら。
今なら、その泣き顔に気付いてあげられるから。
だから。
だから、待って、行かないでくれ。







「ロビン!」


自分のあげた大声に驚いて目を開けた。
部屋の中は真っ暗で、虚空に突き上げた自分の腕が薄ぼんやりと見えた。
アイスバーグの寝息が聞こえる。
心臓がバクバク言っている。
頬が濡れていた。
追い付かなかったタクシーを思い出し、夢の中でも無駄になった、差し伸べたこの手が滑稽で、噎び泣きのような自嘲が勝手に零れた。


アイスバーグを起こしてしまう。
泣いてるのがバレたら笑われる。


フランキーは丸めた掛け布団に顔を突っ込んで、綿を噛み締めた。
瞳を閉じる。
悲しくて寂しい夢だった。
自分の頬を濡らすものが涙だと分かっていたけれど、その悲しくて寂しい夢にもう一度戻りたかった。
悲しくて寂しくてもいいから。
とにかく、ロビンに会いたかった。







結局、一度目を覚ました後はまんじりともせず、朝になってしまった。
夢に戻れないのに悲しみや寂しさだけは引っ張り続け、すっきりと泣き止むことも出来なかった。
布団の中でずっと、ぐずぐずと鼻を啜り続けていた。
明るくなって来た頃、中途半端な時刻にようやく二度寝をした結果。


「ンマー、てめェ…今何時だと思ってやがるんだ」
とアイスバーグにドヤされる時刻の起床と相成った。
アイスバーグには返事をせず、テーブルに残されていた自分の分の朝食を温め直す。
席に着き、黙って遅い朝食を食べ始めた義弟の顔を見て、アイスバーグは呆れた溜息をついた。
「フランキー……、ロビンに会えなかったのがそんなに悲しかったのかよ」
フランキーの目は見るからに赤く、目蓋は腫れぼったくなっていた。


昨夜、アイスバーグが友人と別れて帰宅の段になるとフランキーが行方不明になっていた。
あちこち探した末に階段下の物陰で発見したフランキーは濡れ鼠で、水色の髪からポタポタと雫を垂らしていた。
手ブラのフランキーに「引出物の袋はどうした?」と訊ねると、「そこら辺にある」と言う。
言われた通りそこら辺を探すと、階段途中にひしゃげた袋を見つけた。
フランキーは思い詰めた顔で黙り込み、その異様な姿は「ほっつき歩きやがって」の文句も引っ込むくらいだった。


「さては相当泣いたな?」
アイスバーグがニヤリと笑う。
「バカ言うんじゃねェ…ちっとも泣いてねェ…」
フランキーは、腫れた目でアイスバーグに睨む気にもなれず、時間が経って半ば溶けかかった味噌汁のワカメを吸い込んだ。


「これは寝不足だからだ」
それも嘘ではないが、いかにも泣き腫らした目であることはアイスバーグには一目瞭然。
だが、これ以上言ったところでフランキーが認めるわけもないので、アイスバーグはこの話題を流す。
「ンマー、何にしてもだ。とっとと学校行けよ。悠長に朝メシ食ってる時間じゃねェだろう?トムさんはいつも通り仕事に行ったぞ」
「じゃァ、おめェは何なんだよ、バカバーグ。こんな時間に何ゆっくりコーヒー飲んでんだよ?」
「おれはトムさんと一仕事終えて来たんだ。もう少ししたら大学に行く。今日は4時限目にゼミがあるだけだ」


フランキーの4つ上のアイスバーグは現在、大学4年生。
地元で一番の高校へ進んだアイスバーグはその後危なげなく、現役一発で一流大学へ進み、優秀な成績で今年度大学卒業の見込み。
就職先もトムズワーカーズと決まっているので就職活動も必要なく、優雅なものだ。
建築に関しては学ぶ必要がないと、あえて経済学部を選び、「トムズの将来のため」として中小企業論や経営学、マーケティング論や税法などをきっちり修めたことは、フランキーにとってちょっとムカつく話。


フランキーは大学受験の年だが、建築関係の学部を受けるつもりだ。
フランキーだって、わざわざ建築を大学で学ばなくても、という頭はある。
だけど、どうせ勉強をするのなら好きなことを勉強をした方がいい。
アイスバーグの言うことも分からないではない。
それがトムの助けになることは理解出来るが、フランキーにとって経済の話なんて頭が痛くなるだけだ。
会社経営の小難しいことは義兄に任せる。
フランキーは現場一筋でいいのだ。


「さっさと着替えて行きやがれ」
「行ーくーよ、うっせェなァ」
フランキーはチラリと時計を見る。
10時35分。
食事を終えて支度をして出れば、告別式には余裕をもって間に合う時間。
今日はどうせ、学校を途中で抜けてくる頭でいたんだ。
今日はもうこんな時間だし、このまま学校をサボろう。
大まかなタイムスケジュールを頭の中で組み立てて、フランキーはご飯を口の中に掻き込んだ。



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