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フラロビのSS置き場。
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フランキーはヒモになるタイプではないと思う。


年上は年上なりの、年下は年下なりの悩みがあって、ただでさえ葛藤が凄まじいのに、野郎の方が高校生くらいだったりすると先が長くて不安だね。
『ぼくたま』の小林輪みたいに高校生のうちにロビンちゃんとの間に子どもを作ってもいいと思う。
SSでは大学に行かせてみたけど、フランキーは高卒で大工な感じでいいんじゃないかな。


++++++++++





17. Fの隣人


それから2カ月くらい経った、夏休みも間もなく終わる頃のある日。
名前から脂汗を連想させる暑苦しいセミが、いまだ大合唱する最中、フランキーはアイスバーグと一緒に、納戸として使っている4畳半の掃除をトムから言付かった。
その中にある大量のガラクタを整理して、廃品に出す物は出し、必要な物はまとめて工場の倉庫の隅にでも積んで置け、とのことだった。


もう何年も開かずの間として放置していた部屋を何で今更、と思ったが、そこに一縷の希望が浮かぶ。
「もしかしておれたちの部屋、別々にしてくれんの?」
とフランキーは目を輝かせた。
アイスバーグと別部屋になるのならこの際、狭い4畳半でも構わない。
そろそろ潮時、いや、潮時なんてとっくの昔に逃していたと思っていたところだ。


だがトムは
「いやいや、期間限定だが居候がもうひとり、増えるからな。そのための部屋だ」
などと言う。
「「はあ?」」
こればっかりはアイスバーグと呼吸が合った。
「何だよ、居候って」
「どういうこと、トムさん、誰のことだよ?」
トムはふたりの質問には答えずに、
「じゃあ任せた」
と、たっはっは、と笑いながら仕事に戻って行った。


「何でどこの誰とも分かんねェヤツのために、貴重な夏休みを潰さにゃあならんのよ」
糠喜びから一転、フランキーの心の中を『理不尽』という言葉が占めたが、トムの頼みならやらねばなるまい。
だが、そこには想像以上の破壊的な苦労があった。
部屋を占拠している夥しい物品の殆どが不必要なものの上、重たく、かさ張り、表に出すのも骨だった。
おまけに、一度も使用されることなく仕舞い込まれていた目覚ましや巣箱が突然鉄球を吐き出したりして、4畳半は時折、惨劇の場となった。
汗だく埃塗れでまるっと二日間、男たちは常にケンカをしながらも働き続けた。







4畳半がピカピカになって、2学期が始まって間もなくのこと。


フランキーが帰宅すると、驚いたことに隣の古書店のシャッターが開いていた。
例の買い手とやらが来ているのかもしれない、と思った。
それにしてもこの店の戸が開くなんて、何か月ぶりのことだろう?
懐かしさと好奇心から、店の中を覗く。


依然と変わらない、天井まで壁をびっしりと埋めた古書の山。
古い紙の独特な匂い。
入口を開けて空気を入れ替えてからしばらく経つのだろう、それほど空気が籠っている感じはしなかった。
レジにも、レジ前の椅子にも、本の上にも、埃が白く溜まってはいたけれど。
フランキーはついさっきまでそこでクローバーがいたような、不思議な錯覚に囚われる。
自分の傍らを、小学生の男子と女子高生が笑いさざめきながら走り抜けた。


「こら、フランキー。何を勝手に入って来ておる」
名前を呼ばれて我に返る。
振り返ると、驚いたことにそこにはトムがいた。
「トムさん?」
トムの太った身体で、上がりかまちの小さな戸口がいっぱいになっていた。
「トムさんこそ、何でここに?」
「わしは仕事で来とる」
トムがたっはっはと笑った。


「仕事?」
と訊いたものの、『トム』と『売りに出された店』とくれば大方の見当は容易につく。
「ようやく買い手が鍵と一緒にやって来たんで、ちょいと下見よ」
「ここ、潰して立て直すの?」
フランキーの声も顔も曇る。
「潰すんじゃなくてな…」
「私がトムさんにここのリフォームをお願いしたのよ」
トムじゃない誰かがフランキーに返事をした。
トムの大きな身体の向こうからひょっこり現れた白い顔。


「ロビン!」
フランキーは飛び上がるほどに驚いた。
「何でロビンがここにいるの?いつ来たの?」
トムの巨体を押し退けて、ロビンの元に駆けつける。
「リフォームお願いしたって何?てゆーか何でこの間、一言も残さないで帰ったんだよ!そらァ、おれも悪かったけどさ、連絡先くらい…」
がばり、と抱きついて思いつくままに話しているうちに、先だってロビンに帰られてしまったショックを思い出し、何だか泣きたくなってくる。
「一度にそんなに言われても困ってしまうわ」
ロビンはチリ紙を出して、フランキーの鼻をかんであげた。


「まずは、こっちに着いたのは今日のお昼過ぎ」
「何でいきなり!一言言ってくれれば…!」
「フランキーを驚かそうと思って、黙っててもらったのよ」
フランキーがトムを見ると、彼は『してやったり』と言った顔で笑っていた。
「アイスバーグも…?」
義兄までもが何も知らない自分にしたり顔をしていたのか、と想像するとムカッ腹がたった。
が、トムの
「あいつも知らんよ」
のフォローで、アイスバーグとのしなくていいケンカは回避された。


「それから…私がここにいるのは私がここの買主だから。トムさんにリフォームを依頼したのは私がこの店を継いだから」
ロビンが驚くことを言う。
「え?ロビンがここの店を買ったってことは……ロビンは…」
畳みかけるような新事実の発現に脳ミソがついていかない。
「お通夜の時、息子さんに『古書店はどうなさるんですか?』と訊ねたら、『近々売りに出す予定です』と仰られて。その時はまだ買うつもりはなかったのだけれど、念のため、連絡先をもらっておいたの」


翌日、フランキーに再会して、ロビンは古書店を買うことを決心した。
フランキーの帰りを待てなかったのは残念だったけれど、トムズを出てすぐにクローバーの息子へ購入の意思を伝えた。
「ここを買う金、よく持ってたな」
トムが持っていない額の購入資金を、社会人とはいえこんなにも若いロビンが持っている事実に、フランキーは目を丸くした。
「あ…そのね、稼いだお金…全部貯めてたから…」
尊敬の滲むフランキーの視線に、ロビンは耐え切れず、話を逸らした。
「私、向こうの仕事を辞めてこっちに帰って来たの。この町に、ずっと住もうと思って」


フランキーの今日はつい数分まで、変わり映えのしない極普通の日常だった。
いつも通り学校に行って、いつも通り帰ってきて。
トムが工場にいれば、トムの仕事を手伝うつもりでいた。
それが。


「これからはお隣さんね。よろしく、フランキー」







フランキーの狂喜乱舞はそれだけに留まらなかった。
フランキーとアイスバーグの汗と苦労の賜物、綺麗な4畳半に居候するのはロビンだと知ってフランキーは文字通り小躍りした。
ムッツリ傾向のあるアイスバーグは、黙ったまま鼻血が吹き出そうになるのを堪えていた。


「リフォームが完成するまでの間、どこかのアパートを借りるのも勿体無いからと、トムさんが提案してくれたの。ふたりとも大きくなったのに……家を狭くしてごめんなさい」
「ごめんだなんて!ちっとも気にしてないしー!」
「このまま、ここに住んでくれてもいいくらい、おれたちは歓迎するよ」
青少年たちの下心が分かっているのかいないのか、ロビンは
「ありがとう」
と笑顔で謝意を述べた。


「おまえたち、ケダモノにだけはなるんじゃないぞ」
トムがあまり冗談にならないことを言う。
「ケ、ケダモノ、ダナンテ」
「な、なァ」
言葉少ないイイ笑顔の裏、フランキーとアイスバーグの脳内は『お風呂』、『洗濯物』、『綺麗なおねえさん』、『夜這い』等々、おおよそロクでもない単語で埋まっていた。
「しばらくご厄介になります。よろしくね、ふたりとも」
「「喜んで!」」
ビシ、と親指を立てるタイミングまで、ふたりはピッタリとシンクロしていた。


「それから…トムさんがお家賃を受け取ってくれないので、労働力でお返しします。私がこちらでお世話になる間は、家事と炊事は私の仕事と言うことで」
「アタシは楽になっていいねぇ」
気の利かない男所帯を気の毒に思って、夕食の支度と見えるところの掃除をしてくれていたココロは、期間限定とはいえ仕事が楽になることを素直に喜んだ。
「チムニーと何して遊んであげようかねェ」
と、孫とどう過ごそうか、彼女はプランを練り始めた。


「それからフランキー」
トムが声をかける。
「ロビンにはおまえの家庭教師を頼んだから」
「マジで?!」
周りに花が飛んだのが見えるくらいに、フランキーは狂喜した。
『綺麗なおねえさん』に『家庭教師』の属性が加わって、フランキーの妄想が留まるところを知らない。
既に大学4年のアイスバーグは悔しい舌打ちをしたが、何らかの口実を作って自分も家庭教師をしてもらおうと心に決めた。


「おまえの成績を上げるのは至難の業だろうがの」
「うんうん、やるやる。ロビンが先生なら喜んでやる」
「うふふ、ビシビシ行くわよ?フランキー」
「うん、いいと思う、厳しい系も」
フランキーは「生きてて良かった!」と心底思った。







事実、この日からの数カ月は彼らの人生において、最高に素晴らしい日々であった。
色に例えるならまさに薔薇色だった。
今でも、基本的に水と油のフランキーとアイスバーグが
「ロビンがトムズに住んでいた、あの時期がおれたちの人生の最高潮だった」
と、酒を呑みつつしみじみ語ってしまうくらいに、幸せな日々であった。



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