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フラロビのSS置き場。
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甲板の上ではお互い絶妙な距離感で大工仕事と読書をしているふたり。


海と空が青く光って、甲板の緑も艶やかで、太陽の日差しも渡る風も穏やかで。
ルフィたちが楽しく遊んでて、サンジの作る食事の匂いが漂って、ブルックの演奏が遠く聞こえて。
やさしい時間の中で、本を読んでいるロビンの耳が追いかけるのは、フランキーのリズミカルな作業音と、彼の歌う調子っぱずれの気分よさげな歌。


++++++++++






20. Sugarless GiRL


朝晩の空気はひんやりとして秋の到来を感じるものの、まだ日中はしつこい残暑に悩まされる10月。
今日は秋晴れで、潔いくらいに真っ青な空は暑さを吹き飛ばすくらいに気持ちがいい。
「天高く馬肥ゆる秋」
本日、中間試験の日程を全て無事に終えたフランキーは、気分良く、鼻歌交じりに諺を呟いたりしてみた。


フランキーは商店街を闊歩しながら顔見知りに挨拶しつつ、トムズワーカズを通り過ぎて、古書店の左側にある小さなフェンスを開けて勝手に入り込んだ。
椿の生け垣を片側に見ながら、続く小道を行くと中庭に出て、古書店の裏に回ることができる。
そこには引き戸の玄関と、濡れ縁が昔ながらの佇まいを見せていた。


西側に立つトムズワーカーズの建物が作る庭の日陰には、大きなレジャーシートが敷かれていて、その上には所狭しと本が並べられている。
おそらく、今日のこの家の新しい持ち主は、好天を利用して古書の虫干し作業に精を出していたのだろう。
「そんでもって草臥れて寝ちまった、と」







この古書店を買うに当たり、ロビンは土地建物だけでなく、クローバーの蔵書や遺品、家屋の中にある一切合財を引き継いだ。
ロビンが「古書店をこのまま続けたい」との意思を告げたところ、クローバーの息子は渡りに船とばかりに「そちらで処分してくださるなら無償でどうぞ」と言った。
父親の所蔵品に価値を見出さない息子にとって、膨大な遺品の整理は面倒事のひとつだったらしい。


「実の子どもが要らないというものを、血の繋がらない私が大切に思うなんて、可笑しいわね」
いつだったか、ロビンはそう言って寂しそうに笑った。
クローバーの遺品の全てを保管し続けるのは流石に無理で、ロビンの手で取捨選択をしなくてはならない。
遺品の殆どは捨てなくてはならない、その作業をロビンは毎日少しずつ、故人を偲びながら時に胸を痛めつつ行っている。


「私は…両親の遺物を他人に放り投げるなんて思いも寄らないことだけど」
クローバーを不憫に思うロビンが思い詰めたように言うので、フランキーは
「親子にも色々カタチがあるんだよ。おれだって、親が死んでも何にも要らねェ。でも、トムさんの遺したものなら受け継ぎてェ。繋がってるもンが血縁じゃなくてもいいよ。縁は縁だ」
おれとロビンの間にだって縁はちゃんとあるだろ?
そう言うと、ロビンは嬉しそうに笑った。







フランキーはカバンを庭草の上にそうっと置いた。
足音を立てないように気をつけながら、濡れ縁に転がって寝息を立てるロビンの傍らに腰を下ろす。
濡れ縁には天日干しをしていたらしく、座布団が何枚も並べてあって、その一枚に下したフランキーの尻はポカポカと温められた。


「やー…こりゃァ、寝ちまうのも分かるわ…」
フランキーは両手を後ろにつくと、眩しそうに空を見上げた。
空が高い。
そよそよと、心地よい風が庭を渡り、玄関脇の銀木犀の淡い香りを運んでくる。
大きくひとつ深呼吸をして、肺の中を清しい空気で満たすと、フランキーは自分の左側で無邪気に眠るロビンを見下ろした。
ロビンはすやすやと眠っている。


「……同じ部屋で寝てたこともあったけど……そういや、ロビンの寝顔って記憶にねェなァ…」
寝顔を見せるのはいつもフランキーの方だった。
寝付きがよくて、朝寝坊。
そう思うと、ロビンの寝顔って貴重かも、とフランキーはまじまじと寝顔を見入る。
陶磁のような滑らかな肌。
ロビンは寝ていても綺麗な顔をしていた。


起きている時はいつもある年上感が今はない、ということにフランキーは気が付いた。
白い寝顔はむしろ、無邪気で、あどけなくて、いとけなくて。
「ろ…ロビンて…」
ロビンに相応しい言葉って、綺麗、とか、美しい、だと思っていたけれど。
「実は、可愛い、もアリ…なの、かも…」
そう思ったら、彼女の長くて濃い睫毛も、形の良い薄桃色の唇も、長さの揃った前髪すらも、どこか幼げに見えて来て、何故かそこまで年齢差がないような、そんな不思議な気に囚われる。
思わず魅入っている自分に、フランキーは誰も見ていないのに顔を赤くした。


そうっと手を伸ばし、ロビンの頭を撫でてみる。
いつもの逆、初めての行為かもしれない。
ロビンの頭はフランキーの手には小さくて、まるで卵のように形が良かった。
黒髪はしなやかで、艶やかで、
「おれの髪より、ずっと触り心地がいいじゃないの?」
フランキーの独り言に、楽しい夢でも見ているのか、ロビンの唇の端が緩やかに持ち上がった。


いつもは綺麗で隙がなくて、しっかりしていて、自分とは比較にならないくらいに頭が良くて。
実際に面倒ばかりかけてしまっているロビンだけど。
まァ、一言で言えば『高嶺の花』だけれど。
こうやって無防備にしている間はおれが守ってやんなくちゃな。
と、フランキーは思う。
「へへ…それは、昔ッから心に決めてんだ」
誰も知らないけれど本当は、ロビンは傷つきやすくて寂しがり屋なのだ。
そのことを、自分だけが知っている。


「♪甘い愛には罠があるのよ 
wonder girl グッドモーニング 
今日も声かける 
笑いかけて誘い出して…」


穏やかな時間、規則正しい寝息、傍らには愛しい温もり。
フランキーは何だか気分が良くなって、調子っぱずれの歌を口ずさんだ。







フランキーは昔から、よく喋ってよく笑ってよく歌う少年だった。
気分が良くなるとついつい知らないうちに歌ってしまうのだと、言っていた。
小学生の頃は音楽の教科書に載っている歌だったり、学校の給食の時間に流れた歌謡曲だったり、当時人気だったアニメの歌だったりをよく歌っていた。


高校生の彼は少し色気づいたのか、流行りのラブソングを歌ったりしている。
洋楽も聴いているみたいで良く歌っている。
もっとも、英語が弱いフランキーの歌うそれは全くのデタラメでロビンが傍で聞いていると思わず笑ってしまう代物だが、本人が至ってご機嫌なので黙っている。
とはいえ、懐かしのアニソンなんかも好んで歌っているので微笑ましいことこの上ない。


ロビンは今も昔も、フランキーの歌が大好きだった。
どんな歌でも聴いていると元気になる気がした。
もっと歌って。
そうせがんだことは何度もある。


いつも最初は口ずさむ程度の音量で。
でも気分が乗って来ると声量はどんどん上がる。
作業中にアイスバーグから「うるせェ!黙れ!」と怒鳴られている姿をよく見かける。


だから今も。







「♪ 吹ッき飛ばしたァ 
は、い、い、ろ、の、雲と雲の間に 
わ、ず、か、に、差し込む光はミュウジイック!」


初めは寝ているロビンを起こさないように、とちゃんと考えていた筈だったのに。
「ふふっ…」
寝ているとばかり思っていたロビンが突然笑いだしたので、フランキーは
「ああ、やっちまった…」
と頭を掻いた。
「私、いつの間にか寝てたのね」
ついウトウトしちゃって…
涎跡を気にして相手に見えないように、さりげなく口元を気にする仕草も
なんかかわいい
とフランキーはきゅんとする。


「ごめん。起こしちまった」
「いいの。気にしないで」
寝転がったままロビンはにっこりと笑った。
「もうそろそろ本を引っ込めないといけない時間だったから。フランキーの歌はちょうどいい目覚ましだったのよ」
ロビンは座布団の上で、んんっ、と伸びをする。
「ずいぶん、機嫌が良さそうね。どうだったの?今日の英語」
「ん?まァ…やるだけやった。手応えも何となくだけど感じてるし。後は神のみぞ知る、だなァ」
「要するに頑張りが実を結んだみたいね。良かったわ」
ロビンはゆっくりと身体を起こした。


「ロビン、まだ寝てたら?試験前のおれにずっと付き合ってくれてたから、くたびれてんだろ?」
ロビンは日中、古書店の本を虫干ししながら整理、仕分けをしたり、廃棄するものしないものを選別してはまとめたりと、意外と重労働をして過ごしている。
その他に、トムズの家事炊事洗濯を一手に引き受けてくれている。
フランキーが三食美味しい食事を頂けるのも、洗濯物が出すだけできちんと畳まれて返ってくるのも、どの部屋にも足元に物が散らからなくなったのも、全部ロビンのおかげなのだ。
かてて加えて、フランキーの家庭教師。
体力バカの自分は毎夜ほぼ徹夜でもどうってことはないけれど、ロビンには相当な負担だったのかもしれない。


「ありがとう。でももう大丈夫よ。少し眠ったら楽になったわ」
ロビンは立ち上がるともう一度大きく伸びをして、カコカコとサンダルを鳴らしながらレジャーシートに歩み寄る。
そして虫干しの済んだ本を持ち上げて、パラパラと頁を繰り、仕事の成果に満足げに頷いた。
「ロビン、手伝うよ。どうすればいい?」
フランキーも腰を上げる。
ロビンは「そう?」と微笑むと、古書を濡れ縁に運ぶようにお願いした。


作業をしながらロビンが言う。
「フランキーの歌のおかげでいい夢見てたのよ?」
「へえ…どんな?」
「空を黒い雲が覆ってて、お日様が見えなくて……そうしたらフランキーがね、雲に向かって歌を歌うの。『こっちおいで、遊ぼうよ、楽しいよ』って」
ロビンはフランキーの歌を思い出して、くすぐったそうにクスクス笑う。


「するとね、雲がフランキーのところに下りて行って、一緒に遊んでもらうの」
フランキーには言わないけれど。
雲は小さな女の子の形をしていた。
ロビンにはそれはまるで、小学生くらいの時の自分の姿に見えた。
小さな自分の小さな手を、大きなフランキーが大きな手で、やさしく繋いでくれた。
フランキーの暖かな手が、自分の小さな頭を『いいこいいこ』してくれた。
ロビンは夢を思い出しながら、自分の手を愛おしそうに胸に当てる。


「すると雲がいなくなったから、太陽が顔を出して、ポカポカ暖かくて……」
心も身体も温まって、元気が湧いて、楽しくなって。
「どんどん、フランキーの歌声が大きくなって」
「でー、目が覚めちまった、と」
「ふふ。本当に幸せな夢だったわ」
「おれの出てきた夢を、幸せな夢、つってくれて何より」
フランキーはおどけて笑った。


「本当に…フランキーには救われる…」
ぽつり、とロビンが呟いた言葉が、フランキーの耳に届いた。
「あァ?何が救われるって?」
「文字の通りよ?フランキーの存在は、私の救いなの」
「おれ、何にもしてねェぞ?」
「ふふっ、いいの。私が分かっているから」
フランキーはロビンの言っていることが分からず、首を捻る。


「フランキーは、私に元気をくれるから…。初めて会った頃も…今もね」
ロビンは濡れ縁に置いた古書の表紙の、『希望』という文字を撫でた。
「分ッかんねェなァ。おれ、歌ァ歌ってロビンの睡眠妨害しただけじゃないの」
フランキーは腕いっぱいに古書を抱えて、ロビンを追いかける。
「それでもいいの。傍でご機嫌にしてくれれば」
ロビンは小さく微笑んだ。


「私……いつも思っていたもの……留学先にフランキーをつれてくれば良かった、って……」
「おれ?」
「そう…フランキーが今、いてくれたらな、って…いつも…考えてたわ」
フランキーが傍にいてくれたなら、きっと、間違いを犯さなかった。
寂しさから、人肌恋しさから、流されることもなかった。
過ちの待つ道に足を踏み出すこともなかった。
ふと振り返ってしまった過去に、心が闇に引き摺られる。


「ロビン?」
瞳を陰らせ、言葉の立ち消えてしまったロビンに、フランキーが声をかけた。
「どうかしたか?気分でも悪くなった?」
「あ…ごめんなさい。少し、考えにはまってしまったわ」
ロビンはふるふると頭を振って、フランキーに笑顔を見せる。
フランキーには、ロビンの笑顔が無理して作られたものだとすぐに分かったけれど、黙っていた。


「やっぱり、向こうでも独りでいたんだろ?」
「え?ええ…」
「おれとはすぐに友達になったじゃない」
「それはきっとフランキーがフランキーだからよ」
ナミにしてもウソップにしてもフランキーを介して友達になったのだし、今もこの商店街にロビンが溶け込めているのもフランキーのおかげだとロビンは思う。


「ロビンにとっておれって必要?」
フランキーは濡れ縁に腰かけて訊ねた。
立っているロビンと目線が揃う。
昔はよく、ロビンが腰を屈めたりして目の高さを合わせてくれたっけな、なんてことを思い出す。
「そうね。一家に一台レベルに必要…ううん、一部屋に一台、かな」
「電化製品かよ」
「エアコン並よ?季節によってはないと死んでしまうわ」
ロビンは楽しそうに笑う。
「だって私には、フランキーしか頼れるひとがいないもの」


こんなに明るく綺麗に笑えるのに。
誰とでも卒なくやっていけそうなのに。
フランキーを介在しないところでのロビンの人間関係が、どうしてこんなにも茫漠と寂寥感が漂ってしまうのか、不思議でしょうがない。


それでもフランキーにとってはロビンに必要とされていることは純粋に嬉しいことだった。
同じように、フランキーもロビンを必要としていたから。
けれど、それはまだロビンの中にある母性を追い求めている域を出てはいなかった。



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♪Sugarless GiRL / capsule
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