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フラロビのSS置き場。
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自分の過去だって相当重たかろうに。


で、フランキーにロビンを受け止めるキャパがあるのか、というと、ある、と断言できる。
解体屋の棟梁時代、様々な過去持ちであろう自分の手下全員の人生を全部背負っていたフランキーは、頼り切っても倒れない大黒柱っぷりから、ああも「アニキ!」と慕われて尊敬されて、手下こぞってエニエス・ロビーまで命を賭けて救出に来てもらえたわけで。
子分数十人の人生の重さがなくなった分、幾ら重たいと言ってもロビン1人の人生の重さなら、ひょいひょい担いでしまいそうなフランキーってやっぱり男前。


++++++++++




39. 気づいてしまった、


ロビンは古書店2階の窓辺から庭を眺めていた。
初春の夜の空気はまだ冷たい。
キリリと身を引き締めるような夜気を頬に受け、7年前の夏を思い出していた。
ここはフランキーと過ごした部屋。
懐かしさの詰まる部屋。


「ロビン」
声をかけられて振り向くと、背の高い水色の頭が低い鴨居を気にしながら部屋に入ってくるところだった。
「ここの明かりが見えたもんで。勝手に上がって来ちった」
窓枠に腰かけるロビンの傍に寄ると、フランキーもまた窓から庭を見下ろした。
「植栽も皆抜いちまったからなァ、殺風景になっちまったな」
「そうね…寂しいけれど、工事が終わるまで、少しの我慢ね」
ロビンは小さく、ふう、と息を吐いた。


「寒くねェか?」
「ううん。大丈夫」
「名残惜しんでたんだろ?明日、解体屋が入るもんな。年明けには、って話だったけど、何だかんだで伸びちまったけども」
「私の方は特に急ぎでもないし、別に…」
ロビンの声が途切れた。
一緒に住んでいられる時間が長くなるから。
続きは心の中で呟いた。


フランキーの言う通り、明日からここの工事が始まる。
フランキーと過ごしたこの和室にも、手が入る。
「何だか色々…感慨深くなってしまって…」
「分かるよ」
フランキーは部屋を見渡した。


何もない部屋はガランとして、低い天井なのにやたらと声が響く。
輪っかの形をした電灯が、古い和室に定番の四角い電傘の中から薄暗い光を放ち、ただでさえ黄ばんだ畳を更に黄色に染めていた。
押し入れの中はすっかり空っぽで、
「ここから良く飛び降りて遊んだっけなァ」
なんてことを思い出す。
「博士に『うるさい!床が抜ける!』って、よく叱られてたわね」
ロビンは当時を思い出し、笑った。


「一見普通の家なんだけどな、はかせの家。でも、使ってる木材はなかなかいいモン使ってるんだぜ?」
「トムさんもそんなこと言ってたわ」
ロビンの手が窓枠を撫でた。
「この柱だってさ」
フランキーは自分が手を突いていた柱を、指の背でコンコンと叩いた。


「槇の芯去り材、等級はけっこう高い、いい樹を使ってるよ。はかせ、木に拘りがあったのかな?」
大きな手の平が木目を滑る。
「柾目も綺麗…すげェ、鉋引きてェ…」
柱の上から下までをじっくり眺めるキラキラした瞳は、すっかり職人の目で。
ロビンはそんなフランキーを温かく見守った。


「フランキー…この柱の傷、覚えてる?」
ロビンが立ち上がり、柱に刻まれた傷を指差した。
水平な傷が二本、30cm程の差を持って、段違いにつけられている。
「おう、覚えてる。背比べしたんだよな」
フランキーがニヤッと笑う。
「ロビンがここの買主だってんで、久し振りにここに上がって来た時も懐かしくて確かめた」
太い親指の腹が、柱の傷を擦った。


「昔のおれはこんな立派な柱によく傷なんて入れられたモンだ」
今はこの木材の価値が分かるから恐れ多くて出来ねェわ、とフランキーはやんちゃで物知らずだった過去の自分に苦笑いする。
「この柱、使うのでしょ?鉋をかければこれくらいの浅い傷は削れて元通りだから気にしなくてもいいのでは?」
「うん。まあ。そうだな」
「恐れ多い」と言いながら、フランキーからは然して気にしていないような、軽い返事が戻って来た。


「フランキーは50cmくらい、伸びたのかしらね」
ロビンは今のフランキーの頭の天辺と、昔のフランキーがつけた自分の胸くらいの高さの傷とを見比べて言う。
「私のは、変わりがないけれど。フランキーの傷……こんなに離れてる。本当に大きくなったのね…」
ロビンが当時の自分の名残を大事そうに撫でてくれる。
「筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに」
フランキーの口から和歌が紡がれた。


「あら、伊勢物語なんて…どうしたの?」
慄いている、と言ってもいいくらいにロビンがでっかい目を見開いた。
「ふ、フランキーが和歌を暗唱なんて…これ、古典文学よ?一体、何があったの?」
「いや…そこまで言うこたァ…ないンじゃねェの?」
フランキーはほんのちょっぴり傷ついた。


「学校でこれを教わった時、ロビンを思い出したんだ。ロビンが向こうに行ってる間に、こんなに背が伸びたんだぜ、って。それで何となく、覚えた」
和歌で覚えたのは結局これだけなんだけどよ。
照れたように、不貞腐れたように言うフランキーに、ロビンが
「それ、プロポーズの歌よ?」
と、くすっと笑う。


「え?」
思いがけず、フランキーの顔が赤くなった。
「覚えたのに解釈を気にしない辺りがフランキーらしいわね」
軽く握られた拳が笑いたい口元を隠す。
「『妹』って古代では妻や恋人の他に、男性から見た女きょうだい全般を差したから。『おねえさん』と解釈すれば、フランキーの見立てもあながち間違ってないわよ」
罰が悪くなったフランキーは、畳の上にごろりと大の字になった。


低い天井。
同じような木目が並ぶ天井板。
時間が巻き戻ったような不思議な、懐かしい感覚。


「ここに布団並べて…寝たんだっけ…」
フランキーがぽつりと呟いた。
「今のフランキーのサイズだと、ひとりでいっぱいになるわ、この部屋」
「こんなに狭かったっけなァ…」
ロビンもフランキーの隣に、ころりと横になる。


「ふふふ。何だか懐かしい」
ロビンは隣に寝転がるフランキーの横顔を見つめた。
あの時にあんなに小さかった少年が、こんなに大きくなってしまった。
驚くくらいに、男らしく。
「そんでもって毎日、手を繋いで寝てもらったっけ。こんな風に」


不意に、ロビンの手がフランキーに握られた。
途端、ロビンの心臓が、胸の中で大きな音を立てる。
「なんか、すげェ久し振りな感じ!ロビンと手を繋ぐのなんか、あれじゃね?7年前まで遡らねェといけねェんじゃね?」
フランキーは嬉しい感触に、思わずはしゃいだ。


ロビンの記憶の中のフランキーの手は小さい。
男の子らしく、骨太な感触だったけれど、小さくて。
いつも結ばれるおにぎりのように、ロビンの手の中に納まっていた。
温かくて可愛らしい、子どもの手だった。


それが今は。
包まれているのはロビンの手。
フランキーの手は、温もりはあの時のままに、大きくて、逞しくて、力強くて。
すっかり、大人の男の手で、そんなことはもうずっと、再会した時から知っている筈なのに。
肉厚で武骨な掌と、節くれだった長い指にやさしく握り取られているのが、自分の手なのだと思うと、心臓の動きがどんどん忙しなくなっていく。
どれくらいの力で握り返せばいいのか、加減が分からない。


「ロビン?」
返事のないロビンに、フランキーが怪訝そうな声をかける。
ロビンはゆっくりと目蓋を閉じると、大きくひとつ、深呼吸をした。







手の平が汗ばんでいるかもしれない。
手が固まってしまって、不自然かもしれない。
フランキーに変に思われてるかもしれない。
表情もちゃんと作れていないかもしれない。


どうしてこんなに、フランキーの中の『男』を意識しているのだろう?
たった手を握られただけで、どうしてこんなに頭の中が混乱しているのだろう?
ただ、手の平で体温を交換しただけで、身体の中が、融け出してくるのは何故だろう?


怖い気がする。
知ることは。
気がついてしまったら、本当に深く繋がってしまう。
でももう、気付かないわけにはいかなくて。


ロビンは唇を軽く噛んだ。
ひとつの想いに没頭して、浮かび上がったある言葉が、彼女の胸を美しく締め上げる。


そして、ロビンは受け入れた。
自分の中で生まれていた、フランキーに対する新たな想いが恋であることを。
ずっと自分に目隠しをしていた。
『弟』に恋しているなんて、あってはならないことだと、必死に気持ちを抑えていた。
でも、もう、自分に嘘がつけない。


ゆっくりと目蓋を開ける。
見慣れた天井。
昔懐かしい砂壁。
部屋をぐるりと取り囲む鴨居。
あの時と変わらない場所。
変わったのは、彼の身体と、私の心。







「ロビン?」
もう一度フランキーが名前を呼んだ。
ロビンは荒れ狂う恋情を仮面の裏に仕舞いこむ。
小さい頃から本音や感情を隠しながら生きてきた。
だから大丈夫。
これからも『フランキーのいいおねえさん』を演じてみせる。



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