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フラロビのSS置き場。
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どうしても、子ロビンがベッドの上で震えながら丸くなって寝ている絵が浮かぶ。


コマドリはイギリスの国鳥なのに、マザー・グースにおいて扱いが不憫な件。
ヨーロッパコマドリは胸が赤く、どうして胸が赤いのかという伝説を引っ張るとキリストと因縁があって、「敬虔な鳥」と呼ばれることもあるそうで。
コマドリの持つ「無実の人の遺体を見つけると顔にコケをのせる」伝説もちょっと面白い。


北風が吹き
やがて降る雪
そしたらコマドリどうするんだろ
かわいそうに
きっといるでしょ納屋の中
頭を自分の羽の中
ひとりであったまるように
かわいそうに



++++++++++






43. マザー・グース(後編)


チョッパーは幼稚園での出来事を得意気にしゃべりながら、うまうまもぐもぐ、と綿飴を頬張る。
そんなチョッパーに、ロビンは蕩けそうな視線を向けている。
で、そんなロビンに、フランキーは解せぬ気持ちでいっぱいになる。
おれのこと、そんな目で見たこと一度もねェんじゃね?
今よりも小さくて、多少可愛かっただろう己の小学生時代に遡っても、あんなロビンの顔は見たことがない。


「チョッパー、チムニー誘いに行かねェでいいのかよ?」
フランキーは、チョッパー追い出し作戦にかかる。
「うん。チムニーと どうろでまちあわせだから」
まだだいじょうぶー、とチョッパーは野菜ジュースをすすった。
「ほら、フランキー。手が休んでるわよ?レジュメ、まとめなさい」
何だか急に、ロビンが厳しくなった気がする。


「ごちそうさまでした」
小さなモミジっ手を合わせて、きちん、と挨拶する姿にまた、ロビンの心が射抜かれているのが分かる。
チョッパーのヤツ、これで満足して帰るだろう、と思いきや
「ロビンー。なんかえほんよんで」
なんて甘えやがった、とフランキーはついに鉛筆を一本圧し折った。


「おれだって…おれだって…ロビンに外書を読んでもらいてェんだよ…」
悔しさに悶絶するフランキーには目もくれず、
「いいわよ」
と、ロビンは店内の絵本のコーナーから本を数冊抜き取ってチョッパーの元に戻った。
古い洋書の絵本、書いてあるのはもちろん外国語だけれど、挿絵が綺麗でロビンは好きだった。


チョッパーはにじにじとロビンの膝によじ登り、その上にちょこんと乗る。
その様に、フランキーは目を三角にする力もない。
さっきはー、ロビンがおれの膝の上にいたっけなー…
つーか、おれ、ロビンにお膝抱っこしてもらった記憶ねェー…
フランキーは何かもう、心が草臥れた。


「マザー・グースの絵本から読むわね」
「うんッ」
開かれるページにわくわくした目を向けるチョッパーの頭越しに、魂の抜けかかったフランキーがいた。
「どうしたの、フランキー。何を泣いているの?」
「こっち見んな…泣いてなんかねェ…」
ロビンは小首を傾げた。


ああ、そうか。
さっきまで甘えていたのに、チョッパーにその座を取られてヤキモチ焼いているのね?
相手は幼稚園生だというのに…
しょうがないわねえ…


「そんなフランキーにはこれがいいわね。『なきむしぼうや』」
「おおー、ぴったりだッ」
「……」
そんな弄り方しなくてもよくね?
フランキーはふてふてと、一人ぼっちで課題に取りかかった。







「月曜日の子どもは美しい
 火曜日の子どもは品がいい
 水曜日の子どもは淋しがり
 木曜日の子どもは旅ばかり
 金曜日の子どもは恋をする
 土曜日の子どもは苦労する
 元気がいいのも気立てがいいのも
 お祭りの日に生まれた子ども」


ロビンの静かな声が古書店に響く。
フランキーの少し不貞腐れた気分も、ロビンの朗読を聞いていたら何となく、治まってきた。
落ち着いた、女にしては少し低くて綺麗な声。
滑らかに、水が流れるように、言葉が紡がれていく。


「ロビンはなんようびうまれだ?」
とチョッパーに質問され、ロビンは
「分からないけれど…土曜日なんじゃないか、って気がするわ」
と苦笑する。
土曜日の子どもは苦労する、ロビンはやっぱり自分をそんな風に見ているんだな、とフランキーは腹の中で思う。
フランキーから見れば、ロビンは月曜日か火曜日か、その境目辺りで生まれているように思う。


「おれはなんようびかなー」
と言うチョッパーには
「きっと、日曜日。お祭りの日よ」
と言う。
「チョッパーは元気がよくて、やさしいコだもの」
ロビンに褒められてチョッパーが、「そんなッほめられてもうれしくないぞ、このやろー」とニッコニコした。


「フランキーも、そうね」
ロビンの声に癒されながら、向かいで辞書と格闘していたフランキーは自分に話を振られて顔を上げた。
「フランキーも同じね。元気があって、とてもやさしいもの」
そう笑いかけられ、少し見惚れた。
胸が苦しくなったので、フランキーはテキストに目を戻した。


もしも。
もしも、さっき、チョッパーが入って来なかったら。
どうなっていたんだろうか?とフランキーは思う。
ロビンとキスが出来たんだろうか?
あの時、ロビンが自分に身体を委ねてくれたように感じたのに。
ふたりを隔てる絶望的な距離が、無くなったかのように思ったのに。
今のロビンにそんな様子はまるで見受けられない。
時間が経つにつれ、そんなものは気のせいだったように思えてくる。


「ま…願望が生み出したマボロシ、なんだろーな…」
フランキーは力無く笑う。
ロビンが『弟』のキスを受け入れる、なんて在り得ない。
チョッパーが来てくれて良かったのかもしれない。
キスしてしまっていたら、自分に歯止めが効いたかどうか、分からない。







「ばらはあかいよ
 すみれはあおいよ
  おさとうのあじ
   きみとおんなじ」


「ひともおさとうみたいな あまいあじ するのか?」
チョッパーの頭の上にクエスチョンマークがぽぽんと浮かぶ。
「そうね。好きな人のことは甘く感じるのよ」
フランキーの目がちらり、とロビンを見た。
「ふうん」


チョッパーにはまだ分からねェだろ、フランキーは思う。
おれには分かるけどな。
ロビンは、甘い。
匂いも、笑顔も、キスも、ロビンを想うと湧き上がる苦しさも、存在の全てが甘い。


「例えば…チョッパーは甘いもの大好きでしょ?」
「うん」
「甘いもの食べると、幸せでしょ?」
「うん」
「好きな人といるとね、幸せな気持ちになるの。甘いものを食べた時と同じように、幸せになるの。だから、好きな人は甘いのよ?気持ちの問題なの」
「じゃあ、なめたらあまい んじゃないのか」


「そうねー…でも」
ロビンは身を屈めると、チョッパーの頬っぺたに、ちゅ、と唇を寄せた。
唖然とするフランキーの手から、鉛筆が滑り落ちた。
「私の大好きなチョッパーは甘い味がしたわ」
「え、ほんと?」


チョッパーは目を丸くして、小さな手で自分の顔をペチペチした。
「さっきの綿飴、ほっぺについてたわよ」
ロビンはチョッパーのぷくぷくした頬っぺたを指で突きながら、クスクス笑う。
「なんだーわたあめかー。おれてっきり、おれがおかしになっちゃったのかとおもったぞ」
何そのコメント、ズル過ぎやしねェか?
フランキーの額はとうとう、ノートの上に着地した。



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マザー・グース
/ 訳・和田誠

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