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フラロビのSS置き場。
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前向きに生まれ変わろうとするひとは綺麗だ。


相手の呼び名を変える時っていうのは誰しも何か奇妙恥ずかしさを感じるものだから、ロビンちゃんも「変に思われないかしら」ってちょっと勇気が要ったかもしれない。
麦わらの面々だから、その変化を温かく見守ったと思うけれど。
心身ともに壁がなくなって、自分を装わなくなって、暗黒女に拍車がかかった。


++++++++++





47. 不確かな遠近感


「お邪魔しまーす」
「ロビンちゅわーん。来たよー」
ドヤドヤと店内に足を踏み入れると、
「あら、皆でいらっしゃい」
と、ロビンが笑顔で迎えてくれた。


「相変わらず、盛況みてェだな」
「休んでいる間もないけれど。でも、開店したばっかりで暇、よりはずっといいわ」
言っている先から客からオーダーが入る。
座席はほぼほぼ埋まっていたので、フランキーは
「おれたちは庭に出るからいいよ」
とロビンに窓の外を指差し、合図した。


「ああ、その前に」
サンジがカウンターに入ったロビンを追いかけ、
「ロビンちゃん、こちらをどうぞ」
と、大きめの丸ネコ瓶をふたつ、カウンターの上に置いた。
中にはサンジのお手製クッキーがぎっしりと詰まっている。
ここに来るまでの道中、何をそんなに大きな袋をぶら提げているんだ?と疑問に思っていたが、正体はそれだったのか、と納得した。


「サンジくん、また持って来てくれたの?何だか悪いわ」
「どうぞ、お客に出すコーヒーのお茶請け菓子にでもお使いください」
サンジは瓶をぽんぽん叩き、交換に、それまで置いてあった半ば空になった瓶ふたつを、手提げに入れた。
「…また?」
ってどゆこと?とフランキーが目を丸くした。


「サンジくん、内覧会の後から、こうやって定期的に焼き菓子を持って来てくれるのよ」
「ただコーヒーを出すだけよりも、お茶菓子がついていた方が、ロビンちゃんの店のクォリティが上がるだろ?」
サンジは親指をビッと立てた。
何?要するに、おれの知らないところでサンジはロビンにちゃっかり会いに来てるってこと?
ムカつき、ともジェラシー、とも焦り、ともつかない感情がフランキーの心の中を逆巻いた。
とりあえず、後でサンジをブン殴ろうと思う。


「物凄く美味しいのよ?サンジくんのお菓子」
「そんなに美味いの?」
ウソップが食べたそうに、ネコ瓶の中身を覗き込む。
「後で食べてみて?流石、小さい頃からあの一流店、バラティエで修業しているだけあるわね」
「いやあ、たまたまジジイがバラティエのオーナーってだけですから」
ロビンに手放しで褒められて鼻の下を伸ばしているサンジが気に入らないので、やっぱり殴ろう、とフランキーは決意を新たにした。


「お代、払うわよ?いつもいつも無償でもらってばかりで、申し訳がないわ」
「いいのです。僕は貴女の笑顔のためならば、どんな苦労も厭わない」
ジュリエットに語りかけるロミオの決めポーズよろしく、膝を突くサンジに
「ふふ…ありがとう」
とロビンが可笑しそうに謝意を述べた。
イラッと、フランキーのコメカミに青筋が立つ。


「あ、そうそう。ロビン、レコードプレーヤーの調子はどうだ?」
今度はウソップがロビンに話しかけた。
レコードプレーヤーって何のこと?とフランキーは首を捻る。
「お陰様で、とてもスムーズよ?」
「そいつァ良かった」
ロビンとウソップは見交わすと、にっこりと微笑み合った。
ウソップが相手だとサンジ程はムカつかないけれど、フランキー的に面白くないには面白くない。


古書店の中は今も、静かなクラッシックが流れている。
店内奥にはアナログなレコードプレーヤーが据え置かれていて、ロビンがその日の気分で選曲したレコードがクルクルと優雅に回っている。
これは元々、クローバーの持ち物だった。
クローバーが良く、玄関脇の小さな応接室のソファで音楽鑑賞をしていたのをフランキーもロビンも覚えている。
レコード収集は彼の趣味のひとつだったらしく、仕分け作業中、たまにクローバーの遺品の値踏みに現れていたナミが、そこに眠るお宝価値に目の色を変えていたのも興味深い。


「ウソップに直してもらってからは回転ムラがすっかりなくなったわ」
あれは酷かったものね、機械も使わないでいるとダメになるの早いんだよな、とフランキーの知らないところで知らない話が展開していたらしい。
「回転ムラの原因を突き止めるのはなかなか骨だったが…そこは流石おれだよな!まさか原発信の水晶が壊れているとはな」
鼻高々に長ッ鼻を天に向けるウソップに、ロビンは「そうね」とにこやかに同意した。


「何?ウソップに修理頼んでたの?何時の間に?何で?」
フランキーの意気込みいっぱいの質問に、ロビンは目をぱちくりさせて答えた。
「何でって…オープン前に、何か手伝えることあるか、って訊いてくれて。レコードプレーヤーの調子が悪くて困ってるって言ったら、ね、直してくれたのよね」
昔からウソップは機械に強かったものね、とロビンに言われて長ッ鼻がまた高くなる。
「オシロスコープとか周波数カウンタとか、ちんぷんかんぷんだったもの」
「そういうの、普通に持ってるお前がすげェよ」
とサンジが言った。


「あそこの柱時計も直したんだぜ?」
言われて見た先の柱時計は、昔のクローバー宅の居間にあったもので、そういや久し振りに目についた時には既に動いてなかったな、と思い出す。
「ウソップさあ、おれのノーパソ、調子悪ィんだ。今度みてくれよ」
「いいぜ?天才肌なんだよな、おれって」
「ホント、助かったわ」
何となく、フランキーを除いた三人が盛り上がっている。


おれに言ってくれれば直したのに。
と、フランキーは言いかけて呑み込んだ。
電気回路に関しては、自分よりもウソップの方が得意分野だということは認めるところだ。
それに仲間内に妬いたところで無益。
とりあえず、サンジは殴っておくけれども。







「うめェ!ホントにうめェよ?サンジのお菓子」
今日は梅雨の中休み、空には貴重な晴れ間が覗いている。
三人は銀木犀の木陰の柔らかな庭草に腰を下ろし、ロビンのコーヒーとサンジのクッキーでのんびりはんなりしていた。
「ロビンちゃんのために作ったクッキー、心して食えよ」
サンジはロビンに喜んでもらえて気分がいいらしい。
外だと気兼ねなく煙草が呑めていいなァ、と寝そべった。


フランキーは空を見上げ、ウソップ達に気付かれないように小さく溜息をついた。
ロビンのコーヒーも、サンジのお菓子も美味い。
でも、何だか、胸の中で凝り固まってしまった異物が吐き出させないでいるフランキーは、今一つも二つも、気が乗らない。
そこへ
「おまたせー」
と紅茶を載せたトレーを手に、ナミがビビと共にやって来た。


「ナミすわーん。ビビちゅわーん!待ってたんだよーぅ」
サンジはパッと立ち上がり、どこからともなくハンカチを2枚取りだすと、さりげなく自分の両隣辺りの庭草の上に広げた。
「あ、ありがと」
ナミはそれの上に当然の如く、腰を下ろす。
「思いっきり躾が行き届いてんな」
ウソップは明らかに恐れ慄きの混じる声で呟いた。


両手に花の、もう片方の花、ビビは申し訳なさそうに「ごめんなさい、ありがとう」と座った。
ビビはこの春、ナミが大学で知り合ったお嬢様系、でもカヤよりは遥かに元気系の美人だ。
実はどこやらのロイヤルではないか、と噂されるくらい、気品に溢れていて、それでいて嫌味がない。
当然のようにサンジはメロメロと傅いていた。


「ナミさん!ビビちゃん!このお菓子はおれが作ったんだよー!甘さ控え目なアーモンドフロランタンと、オーソドックスな絞り出しのバニラクッキー!ふたりのために心をこめて作ったんだよーぅ!」
さささ、とレディーふたりに、サンジはサーブした。
「さっき、ロビンのため、ってただろ」
フランキーは、サンジの調子の良さに苦虫を噛み潰したような顔になる。


「お?何だか機嫌悪そうだな、フランキー?」
サンジが何かを察したようで、ニヤリと口角を上げた。
「うるせェな」
「ああ、ちょっと、アンタ達!」
ナミが話に割り込んだ。


「ずい分、無造作に扱ってるけどね、ロビンの店で出されるカップ、これ物凄くいいものだからね!ゾンザイに触らないでよ?」
ナミは特に念入りに、フランキーとウソップに指差し指示する。
「超値打ちものはキャビネットの中に入ってて、ロビンも使わないけれど、こうやってアンタ達の手元にあるのだってヴィンテージ物なのよ?万単位よ?私からしてみたら、こんな無造作に使ってるロビンが信じられないくらいなの!」


「古いってだけだろ?これ、はかせが昔、普通に使ってたの見たぜ?」
「お前、何でも金額に換算し過ぎなんだよ」
フランキーとウソップが見るからにゲンナリした顔を作った。
「確かにロビンが、はかせのデイリーユース品だって言ってたわ?このカップは皆、博士が若い頃に買ったんだって。てことは4,50年は古いものよ?だから値打ちが上がるんじゃない!」
ナミの拳が、ぐ、と握られる。


「今は生産ラインに乗ってないのばっかり」
「お前、人ンちの持ち物の価値、調べたのかよ…」
「どれも手書きの絵付けよ?その意味分かる?ヘレンドにマイセン…ロイヤルコペンハーゲン…それをアンタ達みたいなガサツの塊に使わせるなんて。私だったら在り得ない」
と熱弁を振るうナミに、「結局金かよ」というウソップのツッコミは遠い。


「私のはリモージュね」
ビビが自分のカップを差す。
「おれのはオールドノリタケだなァ」
幼い頃から一流店に出入りして、陶磁器に詳しいサンジもあっさり答える。
「そっかァ…確かに手書きだな…」
とアーティスト魂を揺さぶられているウソップと
「飲めりゃァ何でもいいじゃねェか」
と値打ちを聞いても大雑把なフランキー。


「何にしても、ロビンの持ち物なんだから、いいじゃねェか、どうやって使っても」
「分ーかってるわよぅ!でも、折角の価値あるものなのに…割れちゃったらどうしよう、とか」
「だからお前のじゃないじゃん」
「分からないでしょ?縁あって、私の手元にやってくるかもじゃない?安く私が譲り受けて転売する時に価値が下がるようなことがあっては…」
「何、狙ってンだよ」
「何を小銭を稼ごうとしてンだよ」


「楽しそうね」
サクサクと草を踏み踏み、ロビンがやってきた。
「あ、ロビン」
「美味しく頂いてまーす」
すかさず、女子3人のガールズトークが始まった。
これまでの流れから話題は『こんな連中にいい器を使わせるのは豚に真珠』な件。
美人3人がキラキラと会話をする様に至上の幸せを感じているサンジは、けちょんけちょんにコキ下ろされても気にならない。


「そう言えば、ナミにこの間の頼まれてた本、何冊かちょうどいいのを見つけたわ。帰りに見て行って」
「ありがとうー!」
ナミはロビンに抱きついて、嬉しさをボディランゲージで伝えた。
「で、ねぇ?お値段なんだけど…」
「お前ってブレねェなァ」
「ふふふ。相談に乗るわよ」
ロビンはナミの反応は予想していたようで、すんなりと交渉に乗る姿勢を見せた。


「どんな本頼んでたんだ?」
これまた、自分の知らないところで出ている話が気になったフランキーが訊ねた。
「自然地理学に関連してねー。蔵書の中に古地図みたいのってないかな?って」
「また何かあったら言って?大学の図書館とはまたちょっと違う本のラインナップだから」
ロビンが笑う。
ロビンを囲む、皆も笑顔で。


そんな中、フランキーはひとり、漠然とした寂しさを感じていた。
とりとめのない、ただの独り善がりの予感が心を満たす。
初めて、フランキーはロビンを遠く感じた。
誰よりも近い筈なのに、どうして遠く思うのか。
知らない間に、ロビンとの間に距離が生まれているような気がした。



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