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フラロビのSS置き場。
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「可愛いな、コイツ」と思ったらシメタもの。


そういったわけで突発的に燃え上がる程は若くなく、変態のくせに常識と分別を弁えたフランキーが、ロビンに愛情の片鱗を見るための感情の萌芽って結局何だ、と考えればそれは「尊敬」かな、と。
船大工と考古学者では接する話題もないだろうけれど、ロビンは知的好奇心の旺盛な人だから、興味を持ったことを色々質問しにいくと思うんだ。
そうしてちょこちょこ話をするうちに、フランキーの見る目が少しずつ変わっていけばいい。


++++++++++






63. 誰がコマドリ殺したの?
(9) 雄牛の慟哭 -2-



フランキーが怒っているのは、自分の過去の愚かしさだと思っていた。
正直、フランキーの『姉の顔』を潰したことを、責められると思っていた。
彼の理想だった、夏を一緒に過ごした高校生のロビンを汚したことを、責められると思っていた。
汚れた過去を秘して、澄まして、フランキーの『理想の女性像』を騙って。
「おれを馬鹿にするな」と、「おぞましい」と、罵られても仕方がないと、覚悟していた。


けれど、フランキーが火のように怒っているのは、『ロビンが自分に隠し事をしていたこと』で。
彼女の過去そのものは問題にしていないようだった。
ロビンの胸の中に、フランキーへの狂おしい愛おしさが、じんわりと込み上げてくる。


「お前のことなら、どんな過去だってはおれは、受け入れられるのに!おれだけは、世界中がお前の敵になったって、味方でいるのに!」
フランキーは顔を覆う、手の中で叫ぶ。
「お前は、おれを…それくらいにしか、思ってなかったんだ。おれを、頭ッから信用してなかったんだ…!」


フランキーはそれが悔しかった。
一人前の男だとロビンに思われていないことが、悔しかった。
「弟になる」と宣言した、あの日の自分の愛情を、矮小化されていることが、口惜しかった。
ロビンを愛していることに気がついてしまったから、尚更、彼女に頼られない自分が、情けなかった。


「違うわ!」
ロビンは負けじと叫び返した。
「私はフランキーを、そんな風になんか思ったこと、一度だってない!あんな過去で、嫌われない自信を持てと言う方が無理よ!だけど、私…フランキーに、フランキーにだけは、嫌われたくな」


「おれが!ロビンを嫌いになんてなるわけねェだろうが!」


ロビンの力説を掻き消した、フランキーの大声量での喝破は、彼女の中にずっと根を生やしていた懸念を一瞬で吹き飛ばした。
「何でそんな風に考えンだよ…」
嫌いになるわけがない…?
本当に…?
フランキーがようやく顔を上げて、ロビンと目を合わせた。
でも、フランキーの空色の瞳は透明で、彼が嘘を語っていないことが、ロビンにはよく分かった。


「何だよ、その顔…やっぱり嫌われてるって、思ってたんだろ…」
そう言うフランキーの方が、ロビンよりもずっと憔悴している顔をしていた。
「前に言ったろうが。ロビンを嫌いになることなんて絶対ねェから心配すんな、って。なのに…ロビンはおれのこと、全然、信じてなかったンだ…」
フランキーは物凄く傷ついた。
彼女の重たい過去を受け止めることが出来ないと、それを肩代わりすることの出来ない男だと、ロビンに思われていたことがショックだった。


「こんな風に余所から聞かされるくれェなら、ロビンの口から、聞きたかった…」
「ごめんなさい…」
ロビンは頭を下げて謝った。
「フランキーを信じていないわけじゃなかった。でも…あなたの言葉を鵜呑みに出来なかっただけなの。私……フランキーに過去を知られたら、絶対に嫌われると思っていたから」
「だから、何でそんな風に決めつけンだよ」
フランキーはイライラと言う。


「わ、私…」
ロビンは呼吸を整えながら、言葉を探す。
「私自身、忘れたい過去だから…心の底に沈めて、目を逸らしていたの……今の楽しい日常を守りたくて…逃げだって、分かっていたけど…」
ロビンの悲痛に、フランキーの苛立ちが消えた。


「私はフランキーに嫌われても仕方ないくらい汚れてるの……フランキーに嫌われないだなんて、楽観的にはなれなかった。いつかは絶対に、フランキーの耳に入ることは覚悟してた。その日が出来るだけ遠くにあって欲しいと、毎日、願ってた」
「ロビンが汚れてる?」
理解できない、とフランキーが訝しそうにロビンを見ると、彼女は笑おうとしていた。
傷だらけの本心を隠そうと、無理に笑っていることがフランキーには痛いくらいに分かった。
「だって、私…身体を売…」


ロビンは言葉の途中で、フランキーに腕を掴まれ、引き寄せられた。
ぐるりと長い腕が回されたと思った時には、ロビンの身体はすっぽりと、フランキーの腕の中に抱き竦められていた。
「フランキー…」
ぎゅううっと、骨が折れてしまいそうな力で抱き締められる。
「おれの方こそ、ごめんな…怒って…。悪かった…だから、無理に笑うなよ」
自分のことで精一杯で。
本当は、ロビンが一番、辛かったのに。


「いいよ、もお…分かってるから。言いたくねェこたァ、言うな」
ロビンが頬をつけた胸元は汗で濡れていて、身体の奥底からは激しく血潮の駆け巡る音が響いている。
フランキーは、温かい…
ロビンはフランキーの身体に両手を回すと、ジャージをぎゅっと握り締めた。
強く押し付けられる、小刻みに震える細い身体。
以前にもこんなことがあったな、と思い出す。
こんなに震える程、ロビンは自分に嫌われることを恐れてくれているのだと思えば、『男』と見てもらえてないことなんて、どうってこともない気がする。


大事なのは、ロビンの幸せ。
『弟』だって、いいじゃねェか。


「ロビンの何が汚ェってンだよ。おれァ、平気で触れらァ」
「フラ…」
ロビンは唇を噛み締めた。
これ以上、何かを言おうとすると嗚咽が漏れてしまいそうだったから、ただもうフランキーに身を預け、瞳を閉じた。
大好きよ、フランキー
心の中で、何度も叫んだ。


ロビンからはいい匂いがする。
甘い花のような、フランキーを落ち着かなくさせる、いい匂いがする。
「ロビンは…どこも汚くねェ…綺麗だって。心配すんな」
むしろ、プールから上がったまま塩素もロクすっぽ洗い流してこなかった、ロッカーに入れっぱなしのジャージを着て汗まみれの自分の方が、絶対に汚ないと思う。
しかも臭いと思う。


冗談抜きでロビンが汚れちまう。
離さないと、と思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。
腕の中の、壊れ物の震えが止まるまでは、とてもじゃないけど離せない。
腕の中の冷えた心を、こうして温めてやれるのは、自分だけなのだから。


ぽとり、とロビンの頬に何かが落ちた。
時を置かず、温かい雨が降頻る。
見上げると、フランキーの瞳から大粒の涙がこぼれていた。
「フランキー…どうしてあなたが泣くの?」
「な、泣いてねェ…」


昔から変わらない泣き顔。
必ず口では強がりを言いながら、ぐすぐすと鼻を鳴らして、ぐしゃぐしゃに顔を泣き歪めて。
パタパタと、ロビンを濡らす空色の雫。
綺麗な涙。
フランキーの涙で、ロビンは自分の身体が浄化されていくような気がした。


「ごめん…ロビン…」
フランキーは声を絞り出して詫びた。
「どうして?どうして、あなたが謝るの?」
「ロビンが大変だってこと、きッ…気付かないでいてごめん…知らないでいてごめん…傍に…いてあげられなくて、ごめ、ん…」
「フランキー…」
フランキーがぎゅうっと目を瞑ると、特大の雫が、ロビンの額に落ちた。


「ロビン、前に言ってたよな、留学先におれを連れていけばよかったって、いつも考えてたって」
フランキーはえぐえぐと喉を鳴らしながら、自分の涙で濡れてしまったロビンの顔を拭おうと、指で擦る。
けれど、涙は次から次へと落ちてきて、意味をなさない。
「向こうでロビンは寂しかったんだ。独りぼっちだったんだ。悪い奴らに利用されるって分かってて、それを選んでいかなきゃなんねェくれェに。おれが、傍にいてやれていたら、ロビンが寂しいの、知ってたら…守ってやれたのに…」


深い後悔。
意地を張って、連絡を取り合わない約束なんてしていなければ。
ロビンの過去は違ったものになっていたかもしれないのに。
でも、本当に自分はロビンの力になれたのか?
今だって、一人の男として頼ってもらえなかったのに?
一介の小学生が、ロビンを蝕んだ巨悪にどうやって立ち迎えたというのだろう?
それでも、何も知らないよりは、良かった筈だ。


「ロビンが苦しんでいた時、おれは何も知らねェで、能天気に遊んでたんだ。事件があって、アイスバーグもトムさんも、ロビンを心配してたのに、おれは何にも知らなくて…。ロビンが、こっちに帰って来たのだって傷心してのことなのに、何も、気遣ってやれねェで…何も知らねェおれは、ロビンに迷惑だけ、かけて…お、れ…」


泣き癖がついてしまったフランキーは、もうそれ以上喋ることが出来なかった。
ロビンの身体を強く抱き締めて、その肩口に涙を垂らすことしか出来なかった。
ロビンのために何も出来なかった。
今も、ロビンに何も出来ない。
ただ、泣くだけで、ロビンのために涙を流すことしかしてない。
ロビンはそんな泣き虫をふんわりと抱き止めて、「ありがとう、フランキー」と囁いた。



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