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フラロビのSS置き場。
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悲しい思い出しかなくても故郷だものね。



ロビンもオハラに帰ると思う、あの湖に沈んだ無数の本を引き上げるためにも。
でも、滅んだ後も忌まわしい土地として誰も寄りつかない島には鳥しかいなくて、何もかもが焼き払われた島には雨風を凌げる場所もなくて、能力者であるために水に潜って本をサルベージ出来ないロビンのために、やっぱり誰か、随行者は必要なんだよね。
家が建てられて、大きな船が出せて、潜水が出来て、水を吸った重たい本を何度も持ち上げられるタフさがあって、ロビンの話し相手になれる人なんか最適じゃないの?


++++++++++






71. クルミを割れた日(後編)


今度はフランキーがロビンに見惚れてしまい、手元が疎かになった。
それまで単調に思えるくらいにスムーズだった作業音が乱れ、ロビンは怪訝そうな瞳を上げる。
「どうしたの?フランキー」
「あ?いやいや…」
おっぱいに見惚れてました、そんでもって妄想に火がつきました、とは言えない。


「なに…その、ロビンの頬っぺたが目に入って。傷…痛むのかな?って思って」
見ていた場所を変更し、誤魔化した。
ロビンは手の平で頬を覆うと
「いいえ。大丈夫よ、お陰様で」
と言った。
フランキーは腕を伸ばすと、指の背でそうっとラップを撫でた。


「あの馬鹿スパンダの奴、絶対ェ許さねェ」
「ふふ」
「痕、残らねェといいな」
「浅い傷だから、大丈夫だと思うわ」
「でないと、嫁の貰い手がなくなっちまう」
「…そうね」


ロビンの大きな黒い瞳が、ゆら、と物言いたげに揺らめいた気がした。
フランキーは何だか居た堪れなくなって手を引っ込めると、また作業に戻った。
何で言ったんだ、『嫁』だの、『貰い手』だの。
そんなの想像もしたくねェくせに。
おれ以外の誰かのモノになるロビンなんて、連想するようなコト言うな、馬鹿野郎が。
フランキーは、考えなしの自分に悪態をついた。


ロビンは自分よりも6歳も年上で、女だ。
今、フランキーが18歳で、ロビンが24歳。
年を越してしばらくするとロビンは一つ、また先を行く。
1ヶ月、差が7年になる。
必死になって追いかけても、自分とロビンの間に隔たる6年は絶対に縮まらない。


女性の結婚適齢期がクリスマスケーキに擬えられていた時代なら、まさに売り時。
片や自分は、というと、ようやく大学1年目、社会人になるのにはまだ3年かかる。
社会人になったところで、しばらくは自分一人を養うのに精一杯だろう。
ロビンは今だって、独りで生きていけるというのに。


自分が社会人になるまで、ロビンは待っていてくれるだろうか?
結婚しないで、独りでいてくれるだろうか?
いつかは、『弟』ではなくなる日がくるだろうか?


「なあ」
「なあに」
「結婚、しねえの?」
「誰が?」
「ロビンが」
「誰と?」
「誰かと」


作業をしながら、フランキーがそんなことを言い出した。
引き抜かれていく鋲に目を据えて、モゴモゴと、不明瞭な声で。
想像したくないのは、気になるの裏返し。
知ってて目を逸らしていたことに、つい言及してしまった。
ロビンは鋲に伸ばした手を緩め、丸い瞳をフランキーに向けた。


「いきなり急に何?」
「別に、ふ、深い意味は…」
「私にお嫁に行って欲しいの?」
「そ、そんなんじゃ…」
ロビンが口にした言葉にフランキーは色めき立ち、顔を上げたが、ロビンと目を合わせた瞬間、その瞳は空色の魚になってヒラヒラと泳いでいく。


「そんなんじゃねえんだけどさ、ほら…ロビンはもういい年じゃない?」
「いい、年…」
フランキーの言葉がロビンの胸にグサリと刺さった。
「年食ってる、ってんじゃなくて、ほら」
自分の言葉が向かいの女の豊満な胸に刺さったのを見てとったフランキーは慌てて言い繕った。
これからはもう少し、ロビンに対しては言葉を選ぼう。


「結婚って適齢期みたいなのあるじゃないの?」
「今は女の適齢期も後ろに倒れているのよ。私なんてまだまだ」
ロビンは肩を竦めて、結婚に興味がないアピールをしてみせた。
「ロビンは何歳まで…結婚しねェでも平気でいられる?」
フランキーは手をすっかり止めて、大きな背中を丸めて、低い位置からロビンを上目遣いで見上げてくる。


「……今日はずい分突っかかってくるわね?何?」
「いや、別に…ただ、どーなのかなーって。一般論的に…」
一般論、と言って逃げ、一般論と言われて少し陳述に幅が出来た。
ロビンもそれならと、私見も多少、お茶を濁す。
「一般的な話でいいなら。そうね…女としては30になるまでは…まあ…」
「さんじゅう」


これから6年後。
フランキーも24歳、今のロビンと同じ年。
社会人も2年目で、何とか滑り込みセーフ。
それまでに、ロビンに男として見てもらえれば、の話だが。


「一動物として繁殖する必要性を鑑みて、雌の個体が健康的に出産出来るリミットを考えても、その辺が妥当なのではないかしら?」
赤ちゃんを産む、でいいンじゃね?
こういう時、ロビンて色気のない発言をするな、と思う。
ま、そんなでも惚れた女は可愛いと思える不思議。


「ロビンも30歳になるまでに結婚する、ってこと?」
「結婚するかどうかは…分からないわ」
「じゃあ、少なくとも、30歳までは、結婚しないでいる?」
「それも分からないわ。何にしても相手が必要な話だし」
「ロビンは結婚したい?したくない?」
「だから、今はその相手がいないもの、ピンとこないわ」
「そうなの?結婚考えたいような人、いないの?」
「今はいないわ。でも、こればっかりは、いい人が現れれば…来月にでも結婚するでしょうし」
「ええ?」
「ええ、って何?」
「別に…」


納得のいく回答が得られたような、得られなかったような。
フランキーは最後の鋲を引き抜いて、ファブリックを剥がした。
「あーあ、見事に罅が入ってら。座板は新しいのを用意しねェとだな」
座面を裏に表に引っ繰り返し、枠には問題無いことを確認して、釘抜きを引っ張り出す。
最後の鋲を拾ったロビンは、元々の自分の仕事、オーナメントの片付けに戻った。
ガラスの飾りを緩衝材に包むロビンを見遣って、部材に工具を当てたフランキーの手が、またも止まる。


「ロビン」
「何?」
「本当に付き合ってるヤツ、いねえの?」
「いないわよ」
「じゃあ、好きなヤツは、いねえの?」
「好きな人…?」
「……好きな人」
「……いるような、いないような」


最後の質問だけ、見事に曖昧で、返答にも時間がかかった。
ロビンには好きな男がいるのかもしれない、そんな勘が閃いて黙り込むフランキーに、ロビンがくすりと困ったように笑った。
「本当にどうしたの?今日のフランキー、何か変よ?そんなに私のプライベートが気になるなんて」
「変…」
フランキーは指の上で玄翁をくるりと回した。
はは、と小さく苦笑する。


「何か…今回のことで色々考えた」
玄翁をくるりくるりと手持無沙汰に何度も回す。
「おれはロビンのことが……大事なんだなーって」
大事、という言葉で気持ちをあやふやにする。


「だから、おれはロビンを守ろうって気持ちを新たにしたわけだ。なのにその対象が他の野郎のトコに嫁に行っちまったら、宙ぶらりんになっちまったこの気持ちを、どこにぶつけりゃァいいのかな、と」
かさりかさり、とオーナメントが綺麗に包まれていく。
ロビンの指に整然と片付けられていくそれらの中に、フランキーの想いも含まれているようで、何ともやるせない。
フランキーはワザと冗談めかして明るく言う。


「そうなると、頭の中を『赤とんぼ』がリフレインして、切なくなるのよ」
「十五で姐やは嫁に行き?」
「そんなとこ。で、おれンとこにはロビンから便りが来なくなっちまうの。ダンナとの生活が楽しくて」
ここで言う『姐や』は実の姉ではなくお女中さんであり、便りは嫁に行った姐やからのものではなく、姐やの実家からの便りを指すのよ、とフランキーの間違いを指摘する気にはなれなかった。
『弟』の寂しさ、フランキーの言わんとすることは伝わってきたから。
ロビンはオーナメントを詰めた箱に蓋をして、顔を上げた。


「フランキーの気持ちはありがたいわ。でも、それは杞憂よ?私なんかを貰ってくれる人なんていないと思うの。こんな過去持ちの女なんて、面倒なだけでしょう」
ロビンの言葉にフランキーの顔が曇った。
「そんな顔しないで?私は自分を卑下しているわけじゃないの。本当のこと、事実を言ってるのよ?逮捕歴もあって、学歴ばっかりあって、小賢しくて。男の人が一番敬遠する物件だもの。だからそう簡単に結婚なんて出来ないから心配しないで」


本当に甘えん坊ね、ロビンはフランキーの頭を『いいこいいこ』してあげた。
フランキーはこのやりとりがロビンに対し、「自分は弟である」と徒に印象付けただけに終わったことを口惜しく思った。
「ふふ。私なんかより、フランキーの方が先にお嫁さん貰いそう」
「おれは結婚なんかしねェ。ロビンが結婚するまでは、絶対ェにしねェ」
「私の結婚を見届けてたらずっと独身のままよ?」
「いーよ、それでも」


フランキーは釘抜きを振るい、座板と枠をバラしにかかる。
何かが面白くないような顔をして、一心不乱に釘を抜く。
やっぱりしなきゃよかった、こんな話。
自分の未来とロビンの未来が交錯しねェような、自分とロビンの道がどこまでも平行線に感じるような、そんな結末しか見えねェ話、するンじゃなかった。


ロビンには好きな男がいて。
でもきっと片想いなんだ。
自分の過去を引き摺って、結婚を諦めてンだ。
ロビンはあんなに綺麗で、あんなに優しくて、あんなに賢いのに。
今現在のロビンと天秤にかけて、その過去のせいで結婚を踏み切れねェ男が、ロビンに相応しいか?
そんな男が好きなのか、ロビン。


おれだったら、ロビンの過去なんかちっとも気にしねェでプロポーズすんのに。
なのに、ロビンはおれが、ロビンを置いてさっさと結婚するような男だと思ってンだ。
人の気も知らねェで。
「本当、この傷が残ったら、尚のこと、貰い手がいなくなるわね」
頬に手を当て、ふふ、と笑うロビンが憎らしいけれど、胸が苦しくなるくらいに愛おしい。


「そ、そうしたらッ」
声に出す気なんてなかった。
でも、無意識に出てしまったと思ったら、自分でも驚くくらいの大声で、カッコ悪く思ったフランキーはこれ以上ないスピードで釘を抜きつつ、萎んだ声で
「な、何でもねェ…」
と言葉を括った。


「本当に変なフランキー」
オーナメントを納戸に仕舞いに行くロビンの背中を見送って、フランキーは溜息をついた。
ロビンがいなくなっても、フランキーの周囲にはラベンダーの香りが漂っている。
フランキーがクリスマスプレゼントとして渡したハンドクリームの匂いだ。


スパンダムを殴打したバッグの中にあったプレゼントは案の定、箱が壊れてて無残な姿だったけれど、ロビンは「ありがとう」と嬉しそうに笑って受け取ってくれた。
可笑しかったのが、ロビンが用意していたプレゼントがスポーツバッグだったことで、ちょうど良かったものの何か予感でもあったのか、と笑ってしまった。
フランキーの口角がほんの少し持ち上がった。
静かな店内に、一転してゆっくりとした作業音が響く。


いっそ、顔に傷が残ってしまえばいい。
そのせいでロビンが誰とも結婚出来なくなるのなら、


「そしたら…おれが貰ってやるよ…」
聞く相手のいない言葉を綴る。
おれは、こんなにも大手を広げて、この胸に飛び込んで来るのを待っているのに。
床に置かれたままの、鋲の入ったガラス瓶を眺め、フランキーはもう一つ、大きな溜息をついた。



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