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フラロビのSS置き場。
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オハラは『ナウシカ』の腐海の果ての生まれたての土地のように人間が踏み込まない方がいい。


アイスバーグの手で大きな船になって、アクアラグナの脅威から逃れたW7に、オハラの湖に沈んでいた大量の本が収蔵された図書館が建ったら燃える(萌える、ではなく)。
もちろん、その図書館の建築はアニキに請け負っていただきたい。
ロビンを自分の故郷(というか自分の傍)に縛り付けるために問答無用でW7に建てちゃってもいいよ。


++++++++++






76. Border line (前編)


「お邪魔しましたー」
「ロビン、御馳走様。フランキー、ロビンに迷惑かけないでとっとと宿題やんなさいよ?」
「ロビンちゅわん、また来るねェー!」


三者三様の挨拶を受けながら、ロビンも戸口まで見送りにやってくる。
ふと、表に出て空を見上げたナミが眉根を寄せて、
「あ、雨が降る」
と呟いた。
「本当?」
「巷の予報よりずい分早いな」
「雲ひとつねェけど。ナミが言うんだからアタリだな」


一緒に遊んでいた小さい頃から、ナミの雨予報の的中率を知っているウソップは一も二もなくそう言った。
ナミは気圧の変化や、風の匂いや湿度を肌で感じるセンスに恵まれていて、仲間内には「漁師みたいなヤツ」と評価を受けるくらいに彼女の天気予報はよく当たる。
この商店街の人間は、旅行やイベント時の正確な空模様を知りたい際にはナミに訊くのが当たり前になっている(タダじゃないが)。


「ロビン、洗濯物干してたら、今のうちに入れた方がいいかも。急に来るわよ?」
「そうするわ。フランキー、トムズの洗濯物は干してある?」
「ああ、多分、干しっぱなし」
「ナミ、ココロさんにも雨が降りそうって声かけてくれる?」
「了解」


ナミ達を見送って、店内に戻って来たロビンは
「私、洗濯物を取り込んで来るわ。ナミが言うからには油断してると濡れてしまいそうだから。ちょっと店番しててくれる?」
と、フランキーに声をかけた。
フランキーがいる段階で客足は途絶えるので店番も何もないのだが。
フランキーは「おう」と一言、パタパタと母屋に向かうロビンの背中をじっと追いかけた。
くるり、と鉛筆が回り、ふう、と息をつく。


帰りしな、サンジがこそっと告げた言葉を考える。
「ロビンちゃん、脈あるかもだぞ?ちっと押してみろよ」
さっきロビンとふたりで長々と話しているのがかなり気になりはしたが、何の話をしているのかと思えば、サンジのヤツ。
友人として気にかけてくれているのは有り難いけれど、自分が『弟』である事実が今日明日でどうなるものとは思えない。


「何の脈だってンだよ…」
ロビンが自分に好意を持ってくれている脈なのか、ロビンが年下好きの気があるという脈なのか。
ちっと押せ、って言われてもアバウトすぎて困ってしまう。
男であることを前面に押し出して、好意を思わせても大丈夫、ってことなのか。
そんなことをしようものなら、あっと言う間に感情が決壊して制御不能に陥るのが目に見えている。


「毎日、顔を突き合わしてても、脈、なんてものを感じたことなんざ一度もねェよ」
今日だって、腰を抱かれても、頬にキスをくれても、『姉』である顔が崩れてないひとに、何の脈があるというのか。
隔たる何かが無くなったと感じたのは、己の願望が生み出した錯覚に過ぎない。
フランキーが眉間に深い皺を寄せて難しい顔をしていると、背後で戸口が開く音がした。
まァた懲りない害虫が来やがったか、と追い払う気満々で振り返ると、そこにはフランキーの威嚇になど全く動じない義兄の姿があった。


「ンマー…。お前、こんなとこにいやがったか」
「何だ、てめェか」
店番フランキーはぶっきら棒に接客する。
「何してやがンだ。フランキー」
「見りゃ分かんだろ?おれは真面目にべんきょーしてんのよ」
「ずい分、難しい顔をしてやがったな。どれ、どんだけ難題だ?」
アイスバーグはフランキーのここ数時間の成果を覗き込むと、その手元からテキストを掻っ攫った。


「あ!何しやがる!」
フランキーに追い越されたとはいえ、アイスバーグだってなかなかの長身、流石に座ったままではテキストが奪い返せない。
「……『しかしシリカフュームを混入した高強度コンクリートでは,強度発現に与える硬化初期の高温履歴の影響 について,不明な点が多い。また,強度管理を適切かつ合理的に行うには,高強度コンクリートの構造体における強度発現と管理用供試体の強度発現の関係を把握することが』」
「もう触んなよッ」


中腰で手を伸ばし、アイスバーグからテキストを奪還する。
「重要である。』……だとよ」
「おまえってホンッットやなヤツだな」
フランキーが長い時間かかってようやく怪しい日本語に訳したそれを、さらりと眺めただけで和訳してしまうアイスバーグに恨みがましい目を向けた。


「携帯にかけても出ねェから授業中だと思いきや…ここで油売ってやがったか。ナミ達が来て居場所が知れたが」
「だから勉強してるんだって」
「ロビンに迷惑かけるなってのに」
「うるせーよ。何か用か」
ガチガチと歯を鳴らすフランキーに、アイスバーグは肩を竦めてみせた。


「例の納期が遅れてた部材の件、ようやく到着したってさっき連絡があったんだ」
アイスバーグは天板に寄りかかり、フランキーを探しに来た用件を話し出す。
真面目な仕事の話になったので、フランキーも一転、トムズの職人の顔になった。
「向こうの発注ミスで、作業ストップして工期が遅れて大変なことになってるアレ?」
「そうそう。向こうが勝手にミスって勝手に泡食ってるヤツ」
内輪では笑い話にでもなっているのか、ふたりは思い出し苦笑いをした。


「で、これから、トムさんとおれとで部材を受け取って、現場に運ぶことになった」
「何でウチが?ウチ関係ねェ話じゃん」
「まァ、ウチの責任じゃねェんだが、向こうの社長はトムさんの知り合いだし、トムさんあんなだし、遅れを取り戻してやりてェしで、ちょっとでも手助けしてやるか、ってさ」
「要はタダ働きか。でも、トムさんが言うんじゃ仕方ねェな」
フランキーは頭バリバリ掻いた。


「そんなわけでちょっくら行ってくる」
「おれは?一緒に行かなくていいの?」
「二人もいりゃァ充分だろ、ってトムさんが。港で荷受けして、現場に運んで……今日はおそらく現地泊まりで、明朝着工。フランキーは明日も授業あるし、何より学生は学校行くのが本分、だとさ」
大学をサボれる大義名分が雲散霧消したフランキーの表情に、アイスバーグはニヤリと笑う。


「で、結論としては、今日の夜と明日の朝のメシ、てめェで何とかしろ」
「今日の夜?ココロさんは?」
「ココロさんにてめェの一人分の飯を用意させんのは忍びねェだろ?おれが断った」
確かにその通りではあるが。
アイスバーグのその物言いに激しくカチンとくる。
「てめ、アイスバーグ!」
フランキーはガタリと立ち上がった。


「ダイニングに金を置いといたからそれで賄えよ?」
「…幾ら?」
「千円」
「せッ…足りるかァ!」


やんのかてめー!、とフランキーがアイスバーグに掴み掛ろうとした時、
「あら、いらっしゃい。アイスバーグ」
と洗濯物の取り込みから戻ったロビンの挨拶が聞こえた。
ロビンの、宿題は?という視線を受けて、フランキーはすごすごと椅子に座る。
「よう、ロビン」
フランキーに居座られ、全く仕事にならないだろうロビンに、アイスバーグは同情をこめた笑みを浮かべた。


「お疲れ様。アイスバーグ。美味しい水出しコーヒーあるわよ?」
そう言いながらコーヒーを用意しに向かうロビンに、
「ンマー…すまない。これからトムさんとすぐに出ねェと行けなくて」
とアイスバーグは言う。
フランキーは心の中で、「バカバーグ、とっとと行きやがれ」と何度も唱えた。


「遠出?」
「ちょっとかなり」
「そう。少しだけ待ってて」
ロビンはカウンターの中で何やら手早く支度をすると、手提げをひとつアイスバーグに手渡した。
中には大きめの水筒と、紙袋。
「これ持って行って?眠気覚ましのコーヒーと、サンジくんのお菓子、お茶請けにでも」
「ありがとう、ロビン」


そんなやり取りをしているふたりを見遣りながら、フランキーは面白くない気持ちでいっぱいだった。
ロビンはアイスバーグよりも年上、でもその差はたったふたつだ。
2歳差なら、あってないようなもの。
それくらいだったらロビンだって、それ程自分のことを『弟』として色濃く認識しなかっただろう。


ロビンと比べるとアイスバーグの学歴も霞んでしまうけれど、彼が頭脳明晰であることには代わりがなく、自分なんかと比べたらロビンも頭脳の貧富差を感じることもなくて話しやすいだろう。
このふたりが真剣に討論を始めた日には、フランキーは単語すらヒアリング出来なくなる。
そうやって自分を比較することはよくない、でも、ロビンに相応しい相手を考えるとどうしても、自分が弾かれていくような気がして落ち着かない。


「トムさんによろしくね」
ロビンがアイスバーグと肩を並べ、見送りに向かう。
踵を返しつつ、アイスバーグが
「ロビン。アイツ邪魔だろう?追い出していいんだぞ?」
なんて言うものだから、フランキーは
「てめッ!この…!」
と文句を言いかけたが
「ふふ。適当にあしらうわ」
とのロビンの言葉に二の句が継げない。


「そうしてくれ」
フランキーの反応を笑って、アイスバーグは戸口を開けた。
「雨が降るみたいよ?道中気をつけてね」
「ああ、…って、もう降って来たぞ」
見上げると、先程までの青空は重たい灰色の雲で覆われて、アスファルトには黒いドットが描かれ始めていた。


「じゃあ」と一言、駆け出すアイスバーグに手を振って、ロビンは店に入る。
振り返ると、頬杖をついて鉛筆を動かしている、見るからに勉強に気の乗らない後ろ姿。
時計を見ると、もうじき4時。
ロビンは少し考えて、店の前に『closed』の看板を出すと、カーテンを引いた。


テーブルに戻るとまたしてもフランキーが不貞腐れていた。
「今度は何を膨れてるの」
隣に腰を下ろしたロビンに、
「何だよ…ロビンまであしらう、とか」
と唇が尖る。
「あしらう、っていうのは相手を軽んじて適当に応対する、って意味だけじゃないのよ。普通に応対するのだって『あしらう』って言うの」


ロビンは戸口を指差して、閉まっているカーテンをフランキーに注目させる。
「今日はもう、私はフランキーだけを『あしらう』わ。それじゃ駄目?」
客が来る度に手が止まるようではいつまで経っても終わらない。
そうなると今日のフランキーはいつもに増して、甘えてくるのでロビン的にも落ち着かない。
ロビンの心遣いにフランキーは一気に嬉しくなったけれど、それを表に出すのはカッコ悪い気がして、照れ隠しに
「外は結構な雨だなあ」
と話を逸らした。


「そうね…今日は夕方くらいから雨だとは言っていたけれど…雨脚が強いわね」
ロビンが庭へと目を向けると、紫陽花が白く煙っている。
フランキーは外を眺めるロビンの横顔を、恋情を隠した目でそっと見つめた。
レコードが終わり、店内の音楽が途絶える。
途端、雨音が大きく聞こえ、ふたりを包む静けさに気付いた。



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