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フラロビのSS置き場。
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「あなたのためなら死んでもいい。あなたさえいれば私は幸せなの」的な。


家屋を劇的リフォームする某番組の解体シーンを見ながら、学生時代に解体屋のバイト経験のあるダンナが言った。
「こいつら大槌を振り回すのが仕事だから上半身の筋肉が異常に凄いんだよ、ホント、プロレスラーみたいな体型で」
聞きながら、下半身はそれほどゴツくないのに上半身が発達している解体屋棟梁を連想してナルホドと思ったが、サイボーグだから鍛えるとか鍛えないとか関係ないのか?と疑問に思った。


++++++++++






77. Border line (後編)


早くも店仕舞いをした古書店にはもう誰も入って来ない。
閉ざされた空間にロビンとふたりきり、頭の中には色んな妄想が巡って、葛藤が激しい。
今日はロビンと長くいすぎたのかもしれない。
触れすぎたのかもしれない。
色々なことを考えすぎたのかもしれない。


一歩を踏み出してしまったら、もう戻るのが難しい予感がする。
強い雨粒が紫陽花の艶やかな緑の葉を叩いている。
脈あるかもだぞ?ちっと押してみろよ
サンジの言葉が耳の中をグルグルとリフレインした。


「私の顔に何かついてる?」
気がつくと、ロビンの黒い瞳がじっと見返していた。
「ああ、いや…」
つい、綺麗な横顔に見惚れていた自分に苦笑しながら、フランキーは、
「この雨の中、トムズに戻って金取って買い物に行くの面倒くせェ…と思ってさ」
と誤魔化した。


「買い物?」
ロビンが小首を傾げる。
「今夜はおれだけだから、ココロさんの晩メシねェんだと。適当に食えってさ、アイスバーグが。2食で千円って、足りるかっての」
もっとも、ココロもトムが好きで面倒みてくれているところがあるから、肝心のトムがいなくて力が抜ける気持ちも分からないではない。


「限られた予算で腹いっぱいになるためにはどうしたらいいか、ってのも悩みなのよ」
あったらあっただけ食って飲む男達、基本的に食料の蓄えがないのがトムズだ。
「総菜売り場で値引きされるのを待つしかねェか…?」
それとも100円バーガーを10個買うか?足りるか?足りねェなァ…
と真剣に考えている欠食青年に
「フランキー…良かったら、夜ごはん、ウチで食べてく?」
ロビンが控え目に声をかけた。
ロビンの申し出に、思わず目が丸くなる。


「手の込んだものは用意できないけど」
「いいの?」
フランキーは身を乗り出した。
ロビンが古書店に引っ越してからずい分になるが、ロビンの家で御馳走になったことは数える程しかない。
それだっていつも、トムやアイスバーグ、または仲間の誰かと一緒で、ロビンと水入らず、というのは初めてのことだ。
ロビンの家で、ロビンの手料理で、ロビンとふたりっきりとくれば、心臓が騒ぎ出すのも仕方ないというもの。


「いいに決まってるでしょう?」
ロビンが可笑しそうにクスクス笑った。
「食べる食べる!ロビンのハンバーグ食べたい」
舞い上がって脊髄反射でハンバーグをリクエストしてしまい、「ガキっぽかったかもしんない」と後悔もしたが、食べたかったのだからどうしようもない。
「分かったわ」
そう返事をするロビンも何だか楽しそうに見える。


「そうしたら、これから買い物に行って…」
「おれも一緒に行く」
「ここで留守番して、宿題やってても…」
「やだ」
予想通りのフランキーの返事にロビンはくすりと笑う。


「だったらフランキー、車出してくれるかしら?」
「車?」
ロビンがトムズの車を買い物のアシにするなんて珍しい。
「夕飯の買い物、商店街でもいいけど……フランキーと一緒にひき肉を1キロも買ったら、後でまた何か言われちゃうでしょ?」
「まあな。連中はもうトムさんが出てったの知ってるだろうから、『おねえさんにご飯作ってって泣きついた』とか何とか…絶対に言われるな。で、後からアイスバーグの耳に入って嘲笑される、と」
想像しただけで面白くない。


「国道沿いのショッピングモール、最近新装開店したの知ってる?」
「知ってる。デカイんだよな、あそこ」
「私、まだ行ったことないのよね」
「あそこは車がないとちょっと不便な場所だもんな」


ロビンは考えた。
『姉』ではなく一女性としてフランキーに接する、
はっきり言ってどうすればいいのか、具体的に何をしてあげればいいのか、全く分からない。
分からないけれど、そうすることでフランキーに自信がつくというのなら、例え漠然としたイメージであっても、出来るだけのことをしてあげたい。
とりあえず、古書店や、この商店街にいる間は、自分もそしてフランキーも『姉弟』のイメージが払拭出来ない気がした。
だから手っ取り早く、環境を変えてみようと思ったのだ。


「あそこはアミューズメントもあるのよね?料理を作る時間もあるからそんなには長くいられないけれど……買い物がてら、私と、デートしてくれる?」
「は…?」
ロビンの最後の方のセリフを思わず訊き返す。
「私、変なこと言ったかしら…?」
怪訝そうなフランキーの様子に、ロビンは慌てて言い繕った。


「べ、別にいいの、フランキーの気分転換にどうかしらと思っただけだから…。デート云々は聞き流してくれても」
デートは好きなひととしたいわよね、出過ぎたことを言ったわ、と困った顔をしているロビンに、フランキーはニッと歯を見せた。
「ありがとう、ロビン。しよう、デート」


「いいの?」
恐々と訊ねるロビンに、フランキーは
「いいに決まってんだろ」
と答えた。
ホッと、ロビンの表情が緩んだ。


「でも、出せるっつってもワンボックスだぜ?後ろに工具を山程積んでる、中も外も汚ェの」
トムズの白いバンは土埃で薄茶色に塗装されていて、ハンドルを切る度に工具や何かがガチャガチャと騒がしく、惚れた女とデートするにはそぐわない感が満載だ。
汗と油に塗れた野郎共がデカイ安全靴で乗り込む車内も正直、男臭い、としか言いようがない。
「オーディオも壊れたまんまでAMしか入んねェしな…」
甘いムードが流れないだろうことは賭けてもいい。


気を揉むフランキーとは裏腹に
「いいわよ、気にしないわ」
と、ロビンはあっけらかんとしている。
そりゃそうだ、とフランキーは思う。
ロビンが「デート」と言っても、それは言葉のアヤってもので、別に彼女は『弟』相手に本気デートする気はないのだから。
それでも、例え模擬であっても、ロビンとデートできるのはフランキーにとって物凄く嬉しい。







「そうとなれば早く終わらせてしまいましょう」
ロビンはフランキーのフランス語のテキストを取り上げた。
「私がこっちの宿題、やってあげるから」
珍しいこともあるもんだ、ロビンがまるっと宿題をやってくれるなんて、とフランキーは腹の中で思う。
いつもは「自分でやらないと身につかないわ」とかなんとか、絶対に一通りはフランキーに独力でやらせるのに。


「一緒に遊べる時間が短くなってしまうもの」
ロビンが自分と過ごす時間を少しでも長く、と考えてくれているのかと思うと胸の中がくすぐったくなった。
「でも、仏訳したの、自分のノートに書き写すのは後できちんとやりなさい?」
「うん」
フランキーは俄然張り切って鉛筆を動かした。


レコードが止まったままの静かな店内に、紙の上を鉛筆が滑る音が響く。
「フランキーはどうして第2外国語にフランス語を選んだのかしらね…ドイツ語を選択すると思ってたのだけど」
サラサラと仏文をルーズリーフに書き出しながら、ロビンが言った。
「いやあ、何…深い意味はねェのよ…」
フランキーが動機を思い出しながら苦笑した。


「ただ、サンジのヤツが『フランス語は愛を語るのに相応しい』って言ってたモンで。で、履修届を出す時に…何となくふざけて、ね」
「…呆れた」
ロビンは、ふ、と鼻で笑った。
「で?何か覚えたの?活用出来そうな愛の言葉」
「ジュテームくらいは。つか、フランス語を2回も落としてる、おれに訊く?」
「それもそうね」


ロビンはクスクス笑いを治めながらテキストに視線を落とし、作業を続けた。
しばらくして動かしていた手をゆっくりと止めると、再びフランキーと目を合わせる。
「な、何?」
見上げてくるロビンの瞳が何だか熱っぽいように思えて、勝手にドギマギしてしまう。
「フランキー…、Pour toi, je sacrifierais tout, meme ma vie.
Toi seul suffit pour faire mon bonheur.」


「は?」
勿論、フランス語のヒアリングが出来る筈もないフランキーは、いきなりロビンの唇から紡がれた謎の呪文に言葉もない。
けれど何故か、口説かれたような気がする不思議。
豆鉄砲を食らったような顔をしたまま固まっているフランキーの姿に、ロビンは笑いを堪える。


「今解いた問題の答えよ?
『フランスにおいても地方の中小規模の都市では、中心部における空き家の増加や商店街の空洞化など日本と共通する問題が存在する』。
味気ない文章も、フランス語だと愛の言葉に聞こえた?」
「ちぇ。若者を、からかうなよなァ?」
無意味にドキドキさせられたフランキーはしかめっ面でレジュメ作りに戻る。


「からかってなんか、いないわ…」
ロビンはフランキーに少し寂しそうな瞳を向けて、自分もまた鉛筆を握り直した。
「…Pour toi, …je sacrifierais …tout, meme …ma vie…」
ルーズリーフに文字を綴りながら、口の中で言葉を呟く。
それが愛の言葉と気付かない、目の前の青年に向けて。



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